基礎知識

公開日:2020/10/23更新日:2023/3/30
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就労移行支援の制度解説

就職しても続かない理由は?障害者の職場定着率からみる、就労定着支援活用のススメ

就職しても続かない理由は?障害者の職場定着率からみる、就労定着支援活用のススメ

就労定着支援とは、就職後も継続してはたらくために、就労に伴って生じる生活上のさまざまな課題解決をサポートする福祉サービスです。2018年4月に法改正された障害者総合支援法に基づいて実施されており、就労移行支援事業所をはじめ就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、生活介護事業所、自立訓練事業所などで提供しています。この記事では、就労定着支援の必要性や支援内容について、実例をもとに詳しく紹介します。

就労後の定着率について

一般企業への就職後の職場定着率のデータをもとに、定着支援の必要性について考えてみましょう。2017年障害者職業総合センターが行った「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、就職後の職場定着率の推移は、全体的に下降傾向にあることがわかります。

■障害者の職場定着率 (障害種類別)

出典:障害別にみた職場定着率の推移と構成割合(2017年4月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 障害者の就業状況等に関する調査研究)

各障害別にみると、「発達障害」は、就職後から3カ月後には定着率が84.7%にまで下がり、1年後には71.5%と3割程度の方が離職、「知的障害」は、就職後から3カ月後には定着率が85.3%にまで下がり、1年後には68.0%とこちらも3割程度の方が離職しています。
また、「身体障害」においては、就職後から3カ月後には定着率が77.8%にまで下がり、1年後には60.8%と4割程度の方が離職となっています。
特に落ち込みが大きいのが「精神障害」となっており、就職から3カ月後には定着率が69.9%にまで下がり、1年後には定着率49.3%と半数以上の人が離職している結果となっています。
近年、法定雇用率引き上げに伴い障害者の雇用者数は大幅に増加していますが、就労後の定着にはまだまだ課題があるのが現状のようです。

定着支援あり・なしで変わる定着率の違い

■障害者の職場定着率 (定着支援別)

出典:就職後の支援機関の定着支援別にみた職場定着率の推移と構成割合(2017年 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 障害者の就業状況等に関する調査研究)

一方で就職後、一定期間の就労定着支援を受けた場合の定着率をみると違った結果が見えてきます。
定着支援が「あり」と「なし」での3カ月後の定着率の差を見てみると、支援ありが90.3%に対し支援なしは71.0%となっており、1年後では支援ありが73.2%で支援なしが52.6%となっています。
定着支援「あり」の場合の定着率は、定着支援「なし」と比べると約20.6%の差が開いており、支援を受けたほうが継続してはたらける可能性が高いことが伺えます。

就職後の離職理由について

就職後、職場定着につながらなかったのは、どのような理由からでしょうか。

障害者職業総合センターが行った前出の調査研究によると、一般企業への就職後、3カ月未満で離職した人の離職理由としては「労働条件があわない」が19.1%、「業務遂行上の課題あり」が18.1%となっています。続いて3カ月以降1年未満で離職した人では、「障害・病気のため」が17.4%と最も多く、次いで「人間関係の悪化」が10.8%となっています。

3カ月未満で最も多い離職理由である「労働条件があわない」例としては、「賃金が低い」「残業が多い」「労働時間が長い」「労働条件が違っていた、または変化した」といったことが考えられます。また、「業務遂行上の課題あり」という理由の例としては、「体力的にきつい」「作業環境が合わない」「緊張感が強い」「仕事が覚えられない」などが考えられるようです。

就職活動では「採用されること」がゴールなのではなく、就労後継続して長くはたらくことができるかどうかが重要です。このような背景から就労定着支援サービスは必要とされています。

引用:2017年4月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター/障害者の就業状況等に関する調査研究(P.20/P.34)

就労定着支援の内容を詳しく解説

就労定着支援とはどのようなサービスなのか、利用期間や支援内容などについて詳しく解説します。

就労定着支援とは

就労定着支援とは、一般企業へ就職した障害者が、就職先において長く安定してはたらけるよう、就労後に生じるさまざまな課題に対して解決のためのサポートを行う福祉サービスです。2018年4月に法改正された障害者総合支援法に基づくサービスの一つとして始まり、福祉サービスを提供する事業所などが、障害者と企業、医療機関・福祉機関と連絡をとり、課題解決に向けて必要となるサポートを実施しています。定着支援を行っているのは、就労移行支援事業所の他にも、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、生活介護事業所、自立訓練事業所などです。

利用期間

就労定着支援の利用期間の上限は3年です。就労移行支援事業所や就労継続支援事業所などのサービスを利用し就職した場合は、その事業所が提供する職場定着支援をフォロー期間として半年間無料で利用できます。半年以降の支援については、定着支援事業所や地域の就労支援センターからの定着支援を受けることが可能です。

定着支援事業所で支援を受けたい場合は、就職後半年経過後(7か月目以降)3年が上限期間となっているため、前もって確認しておく必要があります。
また、就労定着支援の利用料金に関しては前年度収入により自己負担が発生する場合もありますので、 事前に相談をされることをお勧めします。

このように、就労定着支援期間には上限があるため、就職後3年半経過後に支援継続を希望する場合、障害者就業・生活支援セン ター等による支援へ引き継がれます。

具体的な支援内容

具体的には、利用者の自宅や企業等を訪問する月1回以上の対面支援を基本とします。支援員は障害者が抱える就業面や生活面、体調面での課題や不安をヒアリングし、課題解決のためのアドバイスを行います。その上で勤務先への訪問、医療機関や福祉機関と連携をし、障害者がはたらきやすい環境へとつなげています。

企業と障害者、双方へのフォローが重要

就労定着支援で重要なのは、「障害のある方の自立」と「企業の安定的な雇用」を意識した双方へのフォローです。就職先とはたらく本人の声をヒアリングし、中立的な立場でアドバイスが行われます。

例えば、事業所のトレーニングで高い能力を発揮し、自信を持って就職を叶えた人でも、就職先では自分のスキルをうまく発揮できずに自信をなくしてしまうケースがあります。こうした、就職前と就職後のギャップに悩むような場合、本人の悩みに寄り添いつつ、就職先企業の意見もきちんとヒアリングし、適切なフィードバックが行われるようサポートします。

業務を進める上では、はたらく人と企業側との認識にズレが生じ、それが課題になることもあるでしょう。そういった場合でも、支援員が状況を一緒に確認し、具体的にどのように対応していくとよいのか、双方を交えて一緒に考えていくようフォローが行われます。

このようなサポートにより、安心して業務を進められる障害者や企業も増えています。就労移行支援事業所の卒業生のほとんどが、就労定着支援を利用していることからも、その必要性が伺えるでしょう。

定着支援の実例を紹介

広汎性発達障害と診断されたAさん。就労移行支援事業所でのトレーニングを経て就職をしましたが、事業所に通っている頃から講座中の居眠りが多く、就職先でもその傾向がなおらずにいました。就職先企業の方からも居眠りを指摘したようですが、本人は「寝ていない」の一点張り。双方の認識の違いをクリアにし、業務に集中できるようにすることが課題となっていました。

本人へのヒアリングを通して居眠りの自覚がないことが明らかになったため、業務中にとれる対策や体調管理でのアドバイスを行った他、医師に相談するようサポートをしました。

支援員と企業側との話し合いでは、興味がわかないことや動きを伴わない仕事をすると眠くなるのではないかと仮説を立て、対策を行いました。具体的には「積極的に声を掛ける」「興味のわく仕事や単調でない仕事を割り当てる」などです。

このようなやりとりの過程で、居眠りを引き起こす原因がわかるようになり、明確な対策もとれるようになりました。業務中の居眠りもなくなり、現在は仕事への高い意欲とやりがいを持って就業されています。

まとめ

就労定着支援は、障害者が企業ではたらく上で生じる、さまざまな課題や困難をサポートするために実施されています。定着率や離職理由のデータから見ても、継続してはたらくために必要なサービスであるといえるでしょう。新しい仕事に就く際は、障害のある方も雇用する側の企業も、少なからず不安があるものです。就労定着支援を活用することで、その不安を少しでも払拭し、長くはたらける環境を整えられるとよいのではないでしょうか。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。