基礎知識

公開日:2022/1/27更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

不安障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

不安障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

不安障害の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授、江口尚先生の解説のもと、不安障害の基礎知識や、仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

不安障害について

不安障害は、精神的な不安がありすぎて心と体にさまざまな不快な変化が起き、生活に支障をきたすものです。どのようなきっかけで、どのような症状があらわれるのか、主な治療方法とともに解説します。

不安障害の主な症状

不安障害の方にとって不安や恐怖の対象はさまざまであり、症状のあらわれ方も異なります。症状のあらわれ方や不安の対象により、「パニック障害」「強迫性障害」「社会不安障害(社会恐怖)」「全般性不安障害」などいくつかの障害に分類されます。

主な症状として、「パニック障害」の場合は、動悸、心拍数の上昇、体が震え、吐き気、めまいなどが挙げられます。「強迫性障害」では、繰り返し手を洗い続ける、火の元や戸締まりを何度も確認するなど、強迫観念から生まれた不安を振り払おうと同じ行動を繰り返してしまうことがあります。「社会不安障害」の場合、人と話すことが怖くなったり、人が多くいる場所に行けなくなったりするため、部屋から出られず引きこもりとなることもあります。

子どもが不安障害になった場合は、頭痛や腹痛などの身体症状があらわれ、不登校となることもあります。また、食事などに関連して、必要な量を食べられない、自分ではコントロールできず食べ過ぎてしまうといった、食べることへの恐怖心から食欲不振や摂食障害につながるケースもあります。

不安障害の発症要因

不安障害は、ものの見方や考え方が影響し、発症することが多いです。例えば、自分が決めたことや考え方に自信がなかったり、いつも悪い方向に考えがちな人が、発症することが多いです。特徴的な見方やマイナスな見方をしがちな人がなりやすいと考えられています。不安は誰しもあるものなので、不安障害は人によって程度やパターンに差こそあれ、比較的発症しやすい障害です。世界精神保健日本調査セカンドによると生涯で4.2%、約25人に1人の割合で発症するとの報告もあります。
※出典:世界精神保健日本調査セカンド

大きな災害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)や過重労働によるストレスなど、大きなストレスが引き金になることもあります。大きなストレスと本人のものの見方が相まって不安障害を発症することもあるのです。

不安障害の主な治療方法

主な治療方法としては、まずは薬物療法が挙げられます。服薬により、過剰な不安や恐怖を和らげます。不安や恐怖から眠れない方へは、睡眠を助ける薬が処方されることが多いです。

また、認知行動療法や暴露療法が用いられる場合もあります。認知行動療法は、偏ったものの見方を、事実に沿った客観的なものに変えていく療法です。暴露療法では、パニックが起こる場面・状況を少しずつ経験してもらい、安心感や慣れを生んでいくというアプローチをします。例えば、バスや電車に乗るのが不安な人には、支援者の付き添いのもと一区間だけ乗車してもらい、何も起こらなかったという経験を蓄積していきます。3歩進んだかと思えば2歩戻るような、ゆっくりと時間をかけて行うアプローチ方法です。

不安障害の治療の上では、医師などの支援者との相性も大切です。しっかりと話を聴いてくれる人か、信頼できる相手かを見極めましょう。合わないと思ったら、病院や主治医を変える選択も必要です。

生活するために活用したいサポート

不安障害の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。気分障害やうつ病などを併発している場合、精神障害者保健福祉手帳が取得できるでしょう。通院や投薬などについて、健康保険の自己負担額を一部公的に支援する制度である自立支援医療も、他の障害を併発している場合には活用できることがあります。詳しくはお住まいの市町村の担当課窓口に問い合わせてください。

不安が大きくなり日常生活に支障をきたすような場合は、まずは精神科や心療内科といった医療機関を受診しましょう。医師によるカウンセリングで、その症状の原因が不安や恐怖からあらわれていると判断されると、不安障害と診断されます。他の気分障害とも似た症状があらわれる場合もあるので、カウンセリングで原因を追求できると、治療のアプローチ方法を決めやすくなります。

その他、職場の産業医や学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。産業医を置いていない会社の場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター) が相談窓口となっています。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

周りの人が理解するべきこと

不安障害の方を支える家族や周りの人は、どのような困りごとがあるのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族ができるサポートについて教えてください

家族の方は、本人の不安感を理解するように心がけていただきたいです。本人の不安や戸惑いを助長するようなことはやめましょう。「気の持ちようで治る」「心が弱いからそうなっている」といった誤った指摘や励ましは、逆効果です。また、身近にいる家族だからこそ気づける小さな変化もあるかと思います。

電車通勤や車の運転など今まで普通にできていたことができなくなったり、度を越して心配性な場面が見られたりしたら、医療機関の受診を勧めてください。本人が嫌がらなければ、通院にも同行してほしいです。家での様子や心配なことを主治医に相談するとよいと思います。

不安障害の方への接し方で、注意すべき点はありますか?

自分には理解できないからと言って、本人の不安を否定しないようにしましょう。不安や恐怖は誰にでもあるものです。その不安が大きくなりすぎてしまった結果、不安障害となります。本人にとっては、どうすることもできないもので、周りの方以上に本人はどうしたらいいのかと悩んでいます。本人の不安を否定せず、受診を勧めるなど、できる範囲でサポートしていただきたいです。

不安障害の方の就職に向けて、家族はどうサポートしたらよいでしょう?

家族や周りの方は、「早くはたらいてほしい」気持ちがあっても、早期の就職や復職を勧めることはやめましょう。本人の症状が落ち着き、不安との上手な付き合い方ができるようになるのを待ってあげてください。もし、仕事上のストレスなどが原因で不安障害を発症している場合は、前と同じ職場に戻らないようアドバイスしてもよいと考えます。
逃げられるものからは逃げてよいし、避けられるものは避けてもよいとアドバイスしてあげましょう。

仕事選びのポイント

不安障害の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

不安障害の方はどのようなステップを踏んで就職を目指したらよいでしょうか?

不安障害の方が就職を目指す場合、本人なりの「やりたい仕事」や「不安障害に至った経緯」などを明確にしておくとよいでしょう。気づきを得てから就職活動をしないと、また同じような状況になりかねません。本人だけで考えるのではなく、家族や支援者などと話しながら明らかにしていけるとよりよいですね。不安に至る場面や課題感に気づいたら、その対処法を持つことも必要です。

仕事内容、人間関係、自宅からの通勤距離や電車の混雑具合など、ご本人がもつ不安要素に合わせて就職活動をするとよいでしょう。例えば、人間関係に不安を感じている場合は、職場見学や実習などは実際の職場の雰囲気を感じられるので、可能な限り参加した方がよいと思います。

不安障害の方に向いている仕事や、注意が必要な仕事はありますか?

不安障害の方にとってはたらきやすい職場は、障害を開示できる環境だと考えます。強いストレスを感じているときに「ツライ・キツイ」とコミュニケーションが取れたり、必要なときに安心して発言ができたりする環境が望ましいでしょう。

採用面接の際に、安心した雰囲気で話せる職場であれば、比較的はたらきやすい環境であると考えます。一方で、不安障害を発症したときと似た状況を想起させるような職場は避けた方がよいです。不安障害の方は、避けられるものは無理せず避けるべきでしょう。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。不安障害の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

不安障害の方が、長くはたらき続けるために必要なことは何でしょうか?

不安障害の方が長くはたらき続けるためには、自己判断で治療をやめてしまわず、きちんと治療を受け続けることが大切だと考えます。例えば、認知行動療法の場合、治療を続けることで偏ったものの見方を整えるテクニックを身につけられます。また、家族や支援員など、支援してくれる人を作っておくことも大切でしょう。職場に理解者がいれば、より長くはたらき続けやすくなると思います。

どのようなはたらき方をすれば、長期就労につながりますか?

不安障害の方は、長時間労働や大きなストレスなどから、不安が大きく出やすいです。あらかじめ職場に伝えておくだけでも、はたらきやすさにつながるでしょう。不安が過剰に大きくならないように、周囲のサポートを受けるのも有効です。

また、前回症状があらわれたときの振り返りをきちんとしておくことも大切だと考えます。対処行動をあらかじめ考えておくだけでも、再発の予防につながります。自身で取り除けられる不安であれば、取り除きましょう。ですが、再発の種が完全に消えることはありません。軽度でも症状があらわれた時点で、主治医に相談することも大切です。

まとめ

不安障害の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。一人ではどうしたら良いかわからないときは、精神科や心療内科といった医療機関、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けることもよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。