今回紹介するのは、知的障害・ADHD(注意欠如・多動性障害)の20代男性の就職事例です。コミュニケーション面で課題のあったYさんが、自分の特性を受容し、苦手分野とも上手に付き合って就職するまでのストーリーと現在の様子を紹介します。
幼少期からの知的障害と高校時代に診断されたADHD
Yさんは幼少期に知的障害と診断され、普通学級の中学校に通っていた14歳の時に障害者手帳を取得します。その後、特別支援学級のある高校で清掃を専門としたコースに進学。高校3年生の時に、なかなか就職先が決まらなかったことから、先生に精神科の受診を促されて受診したところ、ADHD(注意欠如・多動性障害)であると診断されました。
自分の特性に合った就職活動をするためにミラトレへ
ADHD(注意欠如・多動性障害)との診断を受け通院を続ける中で、主治医から就労移行支援事業所を紹介されたそうです。Yさんに初めてミラトレへ見学に来ていただいたのは、高校卒業後間もない19歳の時でした。
初めての場所で面識のない年上の方がたくさんいる状況に戸惑った様子でしたが、興味のある清掃やPCを使ったトレーニングがあることと、同じパーソルダイバースが展開している障害者向け転職支援サービスとも連携しているという安心感を得ていただき、利用を開始することになりました。
3つのステップでプログラムや課題に取り組む
週5日の通所からスタートしましたが、利用当初は慣れない場所への緊張などから月に1度程度体調を崩してしまうこともあったそうです。支援員が聞き取りをすると、自宅でゲームをやり過ぎてしまうこともわかったため、1日のタイムスケジュールを見直すことにします。すると、徐々に生活習慣が改善され、体調と勤怠の安定へとつながりました。
ミラトレ利用中は、3段階でプログラムに取り組んでいただきました。初期は身だしなみやビジネスマナーについて、講義形式のプログラムを受講。自習の時間を活用してビジネスマナーの本を読み、内容をまとめてもらいました。インプットだけでなくアウトプットもしてもらうことで、理解度を高めていきます。相手の話を最後まで聞けないことや、時間管理が曖昧であるといった課題もあったため、「相手が話している時は心の中で10秒待とう」「腕時計を身につけて、5分に1回、時間を確認する習慣をつけよう」と声掛けをしています。
中期になると、特性に合わせたトレーニングもおこなっています。集中力が続きにくいため、単純作業など苦手な作業への抵抗感を少なくすることを目標に、毎日15分間のデータ入力をしてもらいました。作業内容を毎日グラフにすることで成果が目に見えてわかりやすく、モチベーションアップにもつながったそうです。
後期は就職活動として、書類作成や実習などに取り組みました。全体を通じて、バラエティ性をもって堅苦しくなり過ぎないよう、ゲーム感覚でプログラムを組んだことがフィットしたようです。
プログラムを体験し、できることを増やしていく
1日単位のプログラムは、主に午前と午後で種類が違います。午前中は、ビジネスマナーやコミュニケーションなど講義形式のプログラムを中心に受けていただきました。アンガーコントロールやセルフケア、人への頼り方を学ぶメンタルケア講座、食事や運動について学ぶ生活講座もあります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)と診断されてから日が浅いこともあり、まだ受容できていなかった特性との付き合い方を学んでもらいました。午後は擬似就労として、PC入力や清掃、軽作業の訓練をしてもらいました。例として、データ入力や事業所の清掃、書類の三つ折りや封入などです。
さまざまなプログラムを通じて集中力が身につき、時間配分もできるようになるなど、少しずつ成長が見られ始めます。自分が腑に落ちた言葉でないと落とし込めないという特性もありましたが、身近なものに例えることで伝わりやすくなり、徐々に周りの人の言葉を受け止められるようになりました。
自己理解が深まったタイミングで就職活動をスタート
ミラトレ入所から5カ月を過ぎた頃、体調や勤怠は安定していて書類作成が終わりに近づいてきました。自己理解がおおよそ進んだと支援員が判断し、就職活動を開始します。
履歴書やプロフィールカードの作成では、言葉の意味が理解できないことで前に進めないことがありました。例えば、配慮事項を記載する項目で「配慮と事項、それぞれの意味がわからないため記入できない」と言われたため、本人に辞書で言葉の意味を調べてもらいました。意味を理解すると対応できるので、立ち止まった時は都度声掛けをしています。
8社の面接を受ける中で2社から内定をもらい、それぞれの企業で実習に進みました。実習では、作業内容を理解できていることや、丁寧さが評価されています。実習の中で集中しすぎて時間を忘れてしまったこともあったそうですが、もともと集中力が続かないことが課題だったこともあり、支援員は作業に集中できたことを承認した上で、「次のステップは時間管理だね」とエールを送りました。
本人が希望していたPCを使った事務作業の求人から内定をもらえなかったことは、「自分の適性」と向き合う機会になっただけでなく、集中力や時間管理のスキルを身につける良い経験にもなりました。
適性に合った企業と出会い、通所から10カ月で就職先が決定
通所から10カ月、内定をもらっていた清掃業の企業とのマッチングが成立します。企業の担当者を尊敬し、自分も清掃スキルを高めたいと向上心を抱いたことが決め手となり、アルバイトとして採用されることになりました。
就職時、企業の担当者には「1つずつ指示を出してもらいたい」「口頭の指示だけでは理解が難しいため、実際の動きのお手本を見せていただきたい」「細かいタイムスケジュールを毎日伝えてほしい」といった配慮事項を伝えています。
ゴールだった就職から、その先に向かって歩み始めている
就職してから半年後、アルバイトから契約社員にステップアップし、さらに1年が経過しました。もともと清掃が好きだったことや持ち前の向上心、ミラトレでの経験から、はたらく上でミスをしたり指摘されたりすることがあっても、厳しい言葉もしっかりと受け止め「もっと綺麗にしたい」「上手になりたい」と次につなげているそうです。
仕事が休みの土曜日は利用していたミラトレの事業所を訪れることもあります。支援員に近況報告したり、現在ミラトレを利用している方とコミュニケーションを取る様子も見られます。
現在は、仕事と並行して清掃に関する国家資格を取得するために勉強中。「資格を取って自信をつけたい」「スキルを高めてみんなをまとめる存在になりたい」と将来について話してくれました。就職というゴールに向かって就労移行支援事業所を利用し、自分の特性としっかり向き合ってさまざまな経験をしたYさんは、新しい目標に向かって仕事を楽しんでいます。
※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。