統合失調症の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授、江口尚先生の解説のもと、統合失調症の基礎知識や、仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。
目次
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1.統合失調症について
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1-1.統合失調症の主な症状
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1-2.統合失調症の発症要因
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1-3.統合失調症の主な治療方法
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2.生活するために活用したいサポート
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3.周りの人が理解するべきこと
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3-1.家族ができるサポートについて教えてください
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3-2.統合失調症の方への接し方で、注意すべき点はありますか?
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4.仕事選びのポイント
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4-1.統合失調症の方に向いている仕事や、注意が必要な仕事はありますか?
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4-2.統合失調症の方が就職活動をする上で、大切にすべきことは何でしょうか?
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5.はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説
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5-1.統合失調症の方が、長くはたらき続けるために必要なことは何でしょうか?
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5-2.どのようなはたらき方をすれば、長期就労につながりますか?
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6.まとめ
統合失調症について
統合失調症の主な症状
統合失調症の主な症状としては、「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つがあります。幻視・幻聴などの幻覚や妄想などが、陽性症状の例です。陰性症状は、喜怒哀楽の表現が乏しくなる、相手の感情に共感しにくくなるといった「感情の平板化」や、思考の深みがなくなる、やる気が出ない、引きこもるなどの症状を指します。
記憶力や思考力が低下し、勉強や仕事に支障が出てしまう認知機能障害も、統合失調症の主な症状の一つです。認知機能障害の具体例としては、考えをまとめられない、物事に優先順位をつけられない、計画を立てられないなどが挙げられます。
記憶力や思考力が低下し、勉強や仕事に支障が出てしまう認知機能障害も、統合失調症の主な症状の一つです。認知機能障害の具体例としては、考えをまとめられない、物事に優先順位をつけられない、計画を立てられないなどが挙げられます。
統合失調症の発症要因
統合失調症は、もともとストレス耐性が低めの方がなりやすい障害と言われています。大きなストレスがかかると発症しやすいようです。最近の研究では、多少の遺伝要素も関連すると言われ「遺伝的に発症しやすい傾向が見られる」という説もありますが、まだ研究段階です。先天的な脳の機能障害として研究もされていますが、職場環境などで発症するといった後天的な要因も多く見られます。
統合失調症の主な治療方法
統合失調症の主な治療方法は、服薬治療です。まずは服薬によって、症状が穏やかになる状態を目指します。統合失調症で用いられる薬は、飲むことでだるさを感じたり、効果を感じづらかったりするので、飲み続けるのが難しいとされています。また、なるべく抗精神病薬を単剤で用い、症状の程度に合わせて用量を調整するなど、きめ細かい薬物療法を行うことが望ましいとされていますが、離脱症状等の懸念も高まるため自己判断で薬を飲むのを止めないように注意しましょう。止めてしまうと6~8割の方が再発するとも言われています。薬の飲み忘れなどのコントロールが難しい場合は、家族など身近な人にサポートしてもらうとよいでしょう。
内服によって症状が緩和されたら、リハビリテーションも併用します。リハビリテーションでは、認知機能を高めるトレーニングや、症状に合わせた対処方法を自分で学ぶトレーニングなどを行います。
内服によって症状が緩和されたら、リハビリテーションも併用します。リハビリテーションでは、認知機能を高めるトレーニングや、症状に合わせた対処方法を自分で学ぶトレーニングなどを行います。
生活するために活用したいサポート
統合失調症の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。
- 医療費のサポート
・自立支援医療(精神通院医療)
精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を
補助してもらえる制度です。所得に応じて1月当たりの負担額が設定されています。 - 暮らしと社会生活のサポート
・精神障害者保健福祉手帳
税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的な
サービスを利用することができます。 - 生活費のサポート
・障害年金
病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取る
ことができる年金です。 - 就労のサポート
・就労移行支援事業所
・ハローワーク
・地域障害者職業センター
・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ) - さまざまな相談ごとのサポート
・保健所
・精神保健福祉センター
・病院の患者会や家族会
周りの人が理解するべきこと
統合失調症の方を支える家族や周りの人は、どのような困りごとがあるのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏
【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
家族ができるサポートについて教えてください
ご家族にぜひお願いしたいのは、服薬のサポートです。統合失調症の方の中には、薬の効果を感じにくく、薬を飲むのを止めてしまう人もいます。身近で接しているご家族であれば、以前にはなかった違和感も敏感に感じ取れるはずです。少し独り言が多くなったな、なんだか気持ちが沈んでいるように見える、といった場合は、薬を飲んでいるか確認してください。親御さんやお子さんが直接薬を手渡すようにすると、薬を飲んでいるかの確認もしやすくなりますよ。
また、ご家族も「当事者」として積極的に関わってほしいです。病院へ一緒に行って主治医とコミュニケーションをとったりできるとよいですね。困ったことがあったら、精神保健福祉センターや保健所の精神障害窓口、病院など第三者に相談し、具体的な対応についてのアドバイスをもらうと、よりサポートしやすくなるでしょう。ご家族の方だけですべて抱え込まずに誰かに頼れる環境を整えておくことも大切です。
また、ご家族も「当事者」として積極的に関わってほしいです。病院へ一緒に行って主治医とコミュニケーションをとったりできるとよいですね。困ったことがあったら、精神保健福祉センターや保健所の精神障害窓口、病院など第三者に相談し、具体的な対応についてのアドバイスをもらうと、よりサポートしやすくなるでしょう。ご家族の方だけですべて抱え込まずに誰かに頼れる環境を整えておくことも大切です。
統合失調症の方への接し方で、注意すべき点はありますか?
これは職場の方にも、ご家族にも言えることですが、普通に接することです。先入観を持たずに、自然に会話したり、体調を気遣ったりしてあげてほしいと思います。障害のあるなしに関わらず、調子が悪そうにしている人がいたら、体調を気遣い声をかけますよね。同じように統合失調症の方へも、少し辛そうな様子が見られたら、声をかけてあげてほしいんです。特に障害のある方は、自分から訴えるのが苦手な人が多いので「何かあったら言ってね」ではなく、定期的にこちらから声をかけ、様子を確認してあげるとよいと思います。
職場の方以上に関わり合いが深く、本人とコミュニケーションが取れるのがご家族の存在です。本人が自分を客観視できるように、「今日のあなたはこう見えるよ」と適切にフィードバックしてあげるとよいでしょう。
職場の方以上に関わり合いが深く、本人とコミュニケーションが取れるのがご家族の存在です。本人が自分を客観視できるように、「今日のあなたはこう見えるよ」と適切にフィードバックしてあげるとよいでしょう。
仕事選びのポイント
統合失調症の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。
統合失調症の方に向いている仕事や、注意が必要な仕事はありますか?
もちろん個人差がありますので、一概にこの仕事が向いている・向いていないと言い切ることはできませんが、ひとりでコツコツ取り組める仕事や、成果を厳しく求められずにできる仕事はやりやすいと思います。就労経験によっては、高いスキルをお持ちの方もいるかもしれません。そういった場合でも、最初から難しい仕事にチャレンジするのではなく、まずは簡単な作業から始めて徐々にステップアップしていく方がよいでしょう。
一方で、仕事や上司が複数いるなど、マルチタスクが必要な仕事は避けた方がよいと思います。長時間に渡り、高い集中力が必要な仕事も注意が必要です。集中力を維持できる時間は、人によって異なりますのでひと括りにはできませんが、確認をこまめに行いながら、無理のない範囲の仕事ができるとよいですね。
一方で、仕事や上司が複数いるなど、マルチタスクが必要な仕事は避けた方がよいと思います。長時間に渡り、高い集中力が必要な仕事も注意が必要です。集中力を維持できる時間は、人によって異なりますのでひと括りにはできませんが、確認をこまめに行いながら、無理のない範囲の仕事ができるとよいですね。
統合失調症の方が就職活動をする上で、大切にすべきことは何でしょうか?
まずは、自分は何ができるのかをしっかりと認識することが大切になります。これを認識できるようになるための重要な役割を担っているのが、就労移行支援やリハビリでのトレーニングです。統合失調症の方は、服薬により体調が安定したとしても「発症前の状態に戻る」わけではありません。トレーニングの中で、今の状況に「自分を合わせる」術を身につけることができるでしょう。障害受容ができている方が、仕事へも適応しやすいと思います。自分の症状を、しっかりと職場に説明できることも重要ですね。
はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説
就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。統合失調症の方が、障害と向き合いながら仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。
統合失調症の方が、長くはたらき続けるために必要なことは何でしょうか?
長期就労のためには、「心理的安全性が担保」されている「安心な職場」であることが必要です。障害理解が浸透している、お互いに助け合う社風がある、通院休みや休憩がとりやすい雰囲気があると良いですね。また、適性に人事評価がされ、昇給・昇格できるような環境が望ましいです。仕事の内容については、最初からできないと思わず、まずはチャレンジしてみるという前向きな気持ちは大切です。ご自身の障害特性、体力、体調も考えながら、無理なく取り組んでいくことをお勧めします。未経験、または経験が浅い業務であっても、少しずつステップアップすれば、絶対に無理な仕事は少ないと考えています。
会社も最初は大変かもしれませんが、お互いが徐々に慣れてきますので、慣れるまではジョブコーチや就労移行の支援員に個別サポートをしてもらいながら、適応していけるとよいですね。
会社も最初は大変かもしれませんが、お互いが徐々に慣れてきますので、慣れるまではジョブコーチや就労移行の支援員に個別サポートをしてもらいながら、適応していけるとよいですね。
どのようなはたらき方をすれば、長期就労につながりますか?
就職の際に、自分のはたらきやすさをしっかりと考えることが重要です。そして、職場には合理的配慮を求めましょう。ストレス耐性に弱いとか、緊張しやすい、疲れやすいといった自分の障害特性を、会社に伝えておくことも重要です。客観的に自分を見てくれる家族や支援員の声も捉えつつ、自分の言葉で説明できるとよいと思います。
就職後は、上司に定期的な面談の機会を設けてもらいましょう。円滑に仕事を進めるうえで課題があれば、上司へ相談して、解決策を一緒に考えてもらうことが大切です。就労移行支援事業所の定着支援を利用している場合は、支援員に同席してもらうなどサポートを求めてもよいでしょう。また、社内に産業医や保健師、心理職がいる場合には、そのような方々に相談をされてもよいでしょう。自分を支えてくれる家族や支援員などのチームを作っておくことも大切ですね。チームとしてサポートしてもらえれば、より長くはたらくことの実現につながると思います。
就職後は、上司に定期的な面談の機会を設けてもらいましょう。円滑に仕事を進めるうえで課題があれば、上司へ相談して、解決策を一緒に考えてもらうことが大切です。就労移行支援事業所の定着支援を利用している場合は、支援員に同席してもらうなどサポートを求めてもよいでしょう。また、社内に産業医や保健師、心理職がいる場合には、そのような方々に相談をされてもよいでしょう。自分を支えてくれる家族や支援員などのチームを作っておくことも大切ですね。チームとしてサポートしてもらえれば、より長くはたらくことの実現につながると思います。
まとめ
統合失調症の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。独りではどうしたら良いかわからないときは、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けることも良いでしょう。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。
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