基礎知識

公開日:2022/5/20更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

ADHD(注意欠如・多動性障害)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

ADHD(注意欠如・多動性障害)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、ADHD(注意欠如・多動性障害)の基礎知識や仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の基礎知識

ADHD(注意欠如・多動性障害)とは、忘れ物やうっかりミスなどの「不注意」症状と、じっとしていられない、落ち着きがないなどの「多動性・衝動性」症状がみられる発達障害です。
一般的には12歳以前にこれらの症状があらわれます。大人になってからADHDの診断を受けた場合でも、大人になって発症したのではありません。

必ず幼少期にエピソードがあるため、ADHDの診断の際には、子どもの頃の様子がわかる母子手帳や学校の通知表などを参照することも多いです。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の主な症状

ADHDには「注意欠如(不注意)」「多動性」「衝動性」の3つの症状があります。注意欠如の例では、「カギや財布などを頻繁に紛失する」「順序立てて活動に取り組むことが難しい」「約束の時間に遅れる」、「締め切りに間に合わないことが多い」などが挙げられます。

多動性では、「順番待ちや交通渋滞など待つことが苦手」「貧乏ゆすりや顔を触るなど、体を動かしていることが多い」などの症状があらわれることが多いです。

衝動性としては、「気持ちや欲求のコントロールがうまくいかず、我慢することが苦手」「短気でしばしば爆発的に怒ってしまう」などの症状があり、衝動的に行動してしまう点から盗癖などもADHDの症状の一つに挙げられます。

大人と子どもで症状そのものに違いはありませんが、大人になるほどに社会生活における課題を感じやすくなるでしょう。例えば、子どもの場合「落ち着きのない子」であっても、学校生活に支障をきたさない限りは課題として認識されにくいです。

しかし社会に出て、「会議中に関係のない話を喋り続けてしまう」「締め切りを守れない」「アポイントの時間にいつも間に合わない」などの症状があらわれると、仕事上必要な信頼にも影響を与えてしまうのです。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の要因

ADHDの要因は、脳機能の障害と考えられています。しかし、ADHDのメカニズムは少しずつ解明されてきていますが、要因はいまだ明らかではありません。

ある種の疾患や障害においては、ADHDの人も多い傾向がありますが、その関係性もはっきりとは判明していないようです。遺伝的な要素もあると考えられており、親がADHDの場合は、子もADHDの要素を持ち合わせる可能性が高くなります。子どもがADHDと診断された親が、その子の様子を見て自分もADHDであると気づくといったケースも報告されているのです。

その他、母親の妊娠中の生活様式や低出生体重児などの周産期の問題といった環境要因が複雑に関連し、ADHDの症状があらわれます。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の主な治療方法

ADHDの主な治療方法には、薬物療法があります。脳の機能に働きかける薬が処方される場合が多いです。薬もさまざまな種類があるので、きちんと医師に処方してもらい服用しなければなりません。徐々に症状が改善すれば、服用量を減らすこともできます。

ただし、完全に服用を止めてしまうと再発する可能性が高いため、主治医の指示に従い服用を続けるようにしましょう。本人が自分の障害特性を受容できるよう、主治医とのコミュニケーションや、カウンセリングも安定した社会生活を送るうえで有効です。

生活するために活用したいサポート

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

職場の産業医や学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。勤務先が産業医を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談するとよいでしょう。
  • 発達障害者支援センター
    発達障害者への支援を総合的に行う専門的機関です。
    ADHDを含む発達障害者と、その家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害者とその家族からのさまざまな相談に応じ、指導と助言を行います
    ・発達障害支援センター
     └発達障害支援センター一覧
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 生活費のサポート
    ・障害年金
    病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる年金です
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

ADHDは、しつけ等で矯正できるものではありません。できる限り、本人が悩んでいる点について理解を示してあげましょう。「本人がどうしたいか」希望を聞き、本人の考えを尊重しながらサポートするとよいと考えます。

もしも、本人がADHDだと気づけていない場合には、身近な家族が気づき医療ケアへとつなげることが大切です。テレビやインターネットでも、ADHDを取り上げることが多いので、それらの二次的情報からADHDを疑うケースもあります。本人の生きづらさを少しでも和らげるために、医療機関を受診することをおすすめします。

また、本人にADHDの特性があると認識した上で接することも大切です。特性だと認識できずに接すると、本人の疎外感を助長してしまう可能性があります。
家族や周りの方は、個性を認める形で接しつつも、客観的な視点から、本人にどのような特性があるかを伝えてあげましょう。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方への接し方で、注意すべき点はありますか?

ADHDの方は、時間を守れない、約束を忘れてしまうなどのトラブルにもなりやすいでしょう。周りの方は、どこまで許容でき、どこから許容できないのか、本人にしっかりと伝えることが大切です。
配慮と特別扱いは違うため、周りの方が我慢しすぎないことも重要だと考えます。

これはADHDの方に多い傾向でもあるのですが、本人がADHDであることを受け入れられていないケースもあります。そのような場合は、トラブルがあったときなどのタイミングで、本人に伝えることもよいと思います。
こういう場面で自分も周りも困るということをしっかりと共有し、それがADHDの傾向であることも伝えていくことで、障害受容を促せます。

本人が受容できていない場合には、まずは家族や周りの方が受け入れ、理解することから始めるとよいでしょう。ただ、家族や周りの方が本人とトラブルになり、家族や周りの方も本人も疲弊することも少なくありません。
家族や周りの方で抱え込まずに、医療機関や精神保健福祉センター等にも相談をしましょう。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方の就職に向けて、家族はどうサポートしたらよいでしょう?

ADHDの方が就職を目指す場合、家族は本人の特性をしっかりと把握した上でアドバイスしてあげてください。きちんと薬を服用するよう促すことも大切です。

注意がそれやすく物事を根気強く継続することが苦手な特性も持っていることに留意して、就職活動を最後までやり抜こうと伝えるのもよいでしょう。不採用通知が届いてもくじけずに次へ進むよう促してあげてください。

不注意の特性があらわれやすい場合、提出物の出し忘れがないか、面接当日の忘れ物がないかなど一緒に確認するといったサポートも有効です。
スケジュール管理が苦手、順序立てて物事を考えられないという特性がある場合は、一気に何社も応募しないようアドバイスするとよいでしょう。

仕事選びのポイント

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

注意欠如(不注意)の特性があるため、ダブルチェックの体制がとれている環境だと、比較的はたらきやすいのではないでしょうか。
本人のミスが致命的なことにならないような仕事や、ミスを誰かがカバーできる環境であれば、ADHDの方もはたらきやすいと考えます。

ADHDの方の中には、一般雇用枠ではたらかれている方も多く存在しますが、コミュニケーション面で課題が生じないよう、開示できる環境であれば開示するとよいでしょう。
ケアレスミスが多いことやマルチタスクが難しいことなどを、あらかじめ職場に伝えておくことにより、コミュニケーションエラーも生じにくくなります。

薬を服用することにより、コントロールができているのであれば、あえて伝える必要はないかもしれませんが、トラブルの芽をあらかじめ摘んでおくという考え方も大切です。
その際に、職場の意見も聞くようにするなど、一方的なコミュニケーションにならないように注意しましょう。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

一回のミスも許されないような仕事は注意が必要です。そういった意味では、車の運転を伴う仕事や刃物を扱う仕事、大きな機械を操作する仕事などは、ちょっとした操作ミスが命取りとなる可能性が高いため、避けた方がよいでしょう。

複数の作業を並行して行うようなマルチタスクが求められる仕事や、チームで動かすプロジェクトなども、避けた方が望ましいと考えられます。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

ADHDの方が長くはたらき続けるためには、まずは適切な診断を受けて、しっかりと治療を受けることが大切です。

そして、専門家や家族と相談しながら自分にとってストレスとなり得ることを把握し、対処方法を身につけましょう。自分の得意分野を仕事にできると、長くはたらき続けることにもつながります。

また、過重な残業は避けるなど、あまり大きなストレスがかからないよう職場へ理解を求めることが大切です。

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が、はたらけなくなる状態を避けるためにはどうすればよいでしょう?

ストレスから状態が不安定になると、はたらけなくなってしまうこともあり得ます。二次的にうつ症状などを発症するケースもあるでしょう。

本人が変化に気づけないこともあるため、家族や職場の方から指摘してあげられるとよいと考えます。例えば、家族から見て頑張りすぎて無理しているように思えたときには休むように伝えてほしいです。

職場で仕事のミスが増えてしまったときなどには、上司は仕事の量をコントロールしながら本人にフィードバックしてあげられるとよいでしょう。

職場では、上司と面談の機会を設ける、仕事の進捗確認を定期的に行うなどすると、無理をしすぎていないか、過度にストレスを感じていないかなどを確認できます。

もともと落ち着いていたADHDの症状が、顕著にあらわれるようになったらストレスのサインかもしれません。本人が気づくことも大切ですが、気づけない場合には周りからフィードバックしサポートしてあげましょう。

まとめ

ADHD(注意欠如・多動性障害)の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。一人ではどうしたらよいかわからないときは、精神科や心療内科といった医療機関、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けるとよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。