今回紹介するのは、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のある20代男性の就職事例です。学生時代の就職活動がうまくいかず、障害者雇用枠での就職を勧められたADHD(注意欠陥・多動性障害)のIさんが、ミラトレを利用して就職するまでのストーリーと現在の様子をご紹介します。
家族に障害者雇用枠での就職を勧められ障害者手帳を取得
大学在学中の就職活動がうまくいかなかったというIさん。書類選考は問題なく通過できるものの、面接となると言いたいことをうまくまとめられなかったり、質問内容と答えにずれがあったりして、不採用通知ばかりが届いたそうです。
幼少期に発達障害の診断を受けており、小学生の頃には通級指導教室にも通っていました。しかし、本人には障害の自覚がなかったと言います。就職活動の様子を見ていたお母様から、障害者雇用であれば就職できるのではないかと言われ、家族で相談した後、障害者手帳を取得されたそうです。
まずは就労のための準備を整えるべき
障害者雇用枠での就職活動を始めるにあたり、まず障害者のための転職・求人サービスに登録されました。職歴がないため、登録したエージェントのキャリアアドバイザーからは、まず就労移行支援事業所を利用し、就労するための準備を整えてから就職活動をした方がよいとアドバイスされたそうです。エージェントからの紹介を受けて、就労移行支援事業所「ミラトレ」に見学に来られました。
この頃のIさんは、就職活動がうまくいかなかったことに対し落ち込んでいる様子が見られました。表情も硬く、話しかけづらい雰囲気でした。大学時代よりアルバイトを続けていましたが、お母様の正規雇用を望む気持ちが強く、「ミラトレに連れてこられた」という印象です。登録したエージェントとの連携もあり、就職に強いのではないかという期待から、ミラトレの利用を決意されたそうです。
本人の自覚なしに相手を傷つける発言も
就活失敗による落ち込みと反して、利用当初から向上心や意欲が高く、ビジネスマナーやプレゼン方法などを積極的に学ぶ姿勢が見られました。事務職を志望されていたこともあり、PCスキルの習得にも意欲的だったと思います。特にプレゼンに関しては、面接に役立つという想いがあったようで、上手になりたいという意思表示が本人からもあったため積極的に取り組んでもらいました。
一方で、グループワークに対しては課題を感じることが多かった印象です。最初はあまり喋らず無口でしたが、場の雰囲気に慣れてくると感情を表に出しすぎてしまう場面も見られました。例えば、意見の食い違いがあると人の意見を聞かずにイライラしてしまったり、思ったままを口にしてしまい相手を傷つけていることに気づけていなかったりといったことなどです。
支援員はIさんに対し、「相手が嫌な思いをしている」ことを何回かに分けて伝えました。最初は冗談交じりで伝えましたが、信頼関係が築けてからは少し強めに「今できないと就職してから大変だよね」と伝え続けたのです。すると、徐々に本人からも「今ちょっと嫌な態度をとってしまった」「こういう時はどうすればいいですか?」といった相談や発信が出てくるなど、自分から改善しようとしている様子が見られるようになりました。
通所開始当初の様子やその後の変化
大学を卒業してからもアルバイトを続けていたことで、体力的な課題はまったくなく、利用当初から週5日で通所できました。健康には人一倍気を遣う方でしたので、体調不良で休むこともありませんでした。
プレゼンに関しては、最初は一人5分の発表時間を25分程かけてしまい、内容もうまくまとまっていないなど、課題がありました。自分でも長くなってしまったことがわかり、聞いている人も飽きていると自覚ができたため、タイマーを使っての練習を重ねます。すると、時間内に発表できるようになっただけでなく、内容も面白く作り込めるようになり、大きく成長したと感じています。
障害受容に関しても、利用当初は自身の障害について「よくわからない」という感じでしたが、次第に「スケジュール管理」や「優先順位をつけること」が苦手と気づくことができたようです。そして、手帳やエクセルを使ってスケジュール管理をしてみるなど、対処方法を学び習得していく姿が見られました。
努力を重ねて面接も上達
ミラトレに通い始めてすぐの頃は、お母様から早く就職するよう急かされることもあり、大手の求人や説明会の案内などを手渡されることもしばしばあったようです。本人としては望んでいなかったのに、通所してすぐにそのようなことがあり、大変混乱している様子も見られました。まずは焦らずに整えることを優先しましょうと伝え、就職に向けさまざまなプログラムに参加してもらいます。
利用期間が半年程になったころ、自分の障害についてや配慮事項が伝えられるようになったため、就職活動を開始。就職活動の際には、登録していたエージェントのキャリアアドバイザーとも連携を図りました。しかし本人が持ってくる求人は、大手や給与条件がよいところばかりだったため、キャリアアドバイザーはまずは職歴が必要であると説得しました。大手や条件のよい求人では、当然高いレベルのスキルが求められるため、就労経験のないIさん向けではなかったからです。アドバイスを受け、大手から中小企業、正社員から「登用あり」の契約社員、事務職から事務補助と、条件を広げていきました。
プレゼンの上達に伴い、面接もとても上手になり、面接が終わるごとに本人の申し出で振り返りの時間も設けました。質問に対する答えをシミュレーションしてまとめたり、家でも自主練習を重ねたり、努力する姿が見られました。就労実習先では厳しいフィードバックを受けることもありましたが、持ち前の向上心で努力を重ね、ミラトレ通所開始から1年2カ月が経った頃、見事内定を得るのです。就職活動開始から、約4カ月後のことでした。
職場見学で実際に目にした、ソフト面で充実した環境が決め手に
現在、ある特例子会社にて、契約社員として事務職に就いているIさん。静かな環境で仕事ができることや休憩スペースが充実していること、また入社後のフォロー体制が整っていることが決め手となり、応募へと進んだようです。実際に見学できたことも大きく影響し、ソフト面で選ばれた企業で活躍されています。就職先には、「マルチタスクにならないようにしてほしい」「相談しやすい環境を整えてほしい」などの配慮事項を求めています。
就職後の定着支援においては、企業の担当者は、コミュニケーションに少し課題があると感じているようで、「本人に悪気はないが相手を傷つける発言をしているようだ」とミラトレに指摘がありました。支援員は事実を伝え、ミラトレで習得した相手を傷つけないための対処や傷つけたあとのフォローを実行するようアドバイスしました。テレワークになったことで、相手の予定を確認せずに急に連絡することなどもあったようですが、徐々にルールを理解してきているようです。本人もフィードバックを前向き捉え、大きなミスをしてもすぐに上司に報告できるようになったなど、成長を実感できている様子が見られます。
生活も仕事も充実。自分を変えられたミラトレには感謝しかない
人一倍努力家で、向上心が強いIさん。うまくいかなかったことを自分自身で復習できる点が、就職後の定着、活躍に繋がっていると感じています。相談もためらわずにできるようになり、相談した方がよい場面かどうかの判断もつくようになったようです。
生活はとても充実しているようで、家にお金を入れられることや、毎月貯金ができること、好きなものを自分で買えることなど、すべてに喜びを感じると話しています。仕事に関しても、スピードが早いと褒められることもあり「楽しい」と感じているようです。今はミスを減らすこと、任される仕事を増やすことを目標に、日々業務に取り組んでいると言います。
ミラトレに遊びに来た際には、「ここに来なかったら、こんなに明るい自分にはなれなかった。こんなにコミュニケーションがとれる人にはなれなかった」と支援員に話してくれています。
※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。