障害のある人が就職をする際は、企業から合理的配慮の提供を受けることで、はたらきやすさにつなげることができるでしょう。今回は、合理的配慮に関して「自分は対象となるのか」「実際にどのような配慮が行われているのか」といった疑問を持つ方に向けて、合理的配慮の概要や配慮の求め方、実際に企業で行われている合理的配慮の事例を紹介します。
目次
-
1.合理的配慮とは、障害のある人のバリアを取り除くために配慮すること
-
1-1.合理的配慮の対象となる障害者とは?
-
1-2.合理的配慮の範囲はどこまで?
-
2.就職するときに合理的配慮を実現するための流れ
-
2-1.採用時に合理的配慮を必要としている意思を伝える
-
2-2.企業とどのような配慮が可能か話し合う
-
2-3.合理的配慮を実施するための準備をする
-
2-4.行ってきた配慮の見直し・改善をする
-
3.企業がおこなう合理的配慮の具体例
-
3-1.視覚障害の場合
-
3-2.聴覚・言語障害の場合
-
3-3.肢体不自由の場合
-
3-4.内部障害の場合
-
3-5.知的障害の場合
-
3-6.精神障害の場合
-
3-7.発達障害の場合
-
3-8.難病に起因する障害の場合
-
3-9.高次脳機能障害の場合
-
4.必要な合理的配慮を考え、はたらきやすい環境を整えよう
合理的配慮とは、障害のある人のバリアを取り除くために配慮すること
目が見えない、耳が聞こえない、精神的に不安定など障害のある人は、日常生活や社会生活を送る中で、さまざまなバリアに直面することがあるでしょう。
合理的配慮とは、障害のある人が感じるバリアを取り除いたり、軽減したりすることで、全ての人が公平な機会を得られるようにする取り組みです。
雇用の分野を対象とした法律である「障害者雇用促進法」では2016年の改定で、障害のある人を雇用する場合に「合理的配慮の提供」が義務づけられました。
事業主である企業は、障害のある従業員に対して合理的配慮を提供し、「均等な機会や待遇を確保する」「障壁となっている事柄に対して改善や調整をおこなう」義務があるのです。
合理的配慮とは、障害のある人が感じるバリアを取り除いたり、軽減したりすることで、全ての人が公平な機会を得られるようにする取り組みです。
雇用の分野を対象とした法律である「障害者雇用促進法」では2016年の改定で、障害のある人を雇用する場合に「合理的配慮の提供」が義務づけられました。
事業主である企業は、障害のある従業員に対して合理的配慮を提供し、「均等な機会や待遇を確保する」「障壁となっている事柄に対して改善や調整をおこなう」義務があるのです。
- 日常生活を対象とした合理的配慮の提供は「障害者差別解消法」によって定められています。この法律は、障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、だれもがその人らしさを認め合いながら共に生きる「共生社会」の実現を目的としています。
障害者差別解消法における合理的配慮の提供はこれまで、企業や団体、店舗などの事業者に対して「努力義務」とされていましたが、2024年4月からは義務化されます。
合理的配慮の対象となる障害者とは?
合理的配慮を受ける対象となるのは、障害特性によってはたらくことに制限を受けている人たちです。例として以下のような障害があり、長期にわたり就労に制限を受けている、または就労が難しい場合に合理的配慮を受ける対象となります。
障害者手帳をもっていない人も対象に含まれます。障害により「出社が難しい」「定期的な通院が必要である」など、何かしらの制限を受けている人は全て対象です。
障害者手帳をもっていない人も対象に含まれます。障害により「出社が難しい」「定期的な通院が必要である」など、何かしらの制限を受けている人は全て対象です。
- 合理的配慮の対象となる人
・身体障害
・知的障害
・精神障害(発達障害、高次脳機能障害を含む)
・心、体のはたらきに障害がある(難病に起因する障害を含む)
合理的配慮の範囲はどこまで?
合理的配慮を提供する範囲は、「企業と対象者の双方に過重な負担がかからないこと」を基準に判断します。どのような配慮が必要となるかは障害者自身の障害特性や業務の内容、状況によって異なるため、一人ひとりに合った方法を見つけ出すことになります。
なお、企業に過重な負担となっているかは、以下のような項目から個別で判断をします。
・生産活動にどの程度影響するか
・機器や設備、人手などを増やすなど実現することが可能であるか
・費用や負担はどの程度か
・企業の規模に適した負担の程度であるか
・企業の財務状況に適した負担の程度であるか
・公的支援を利用できるか
これらを踏まえ、「お互いに大きな負担がかからない」と判断された場合に、合理的配慮の提供がおこなわれます。
参考:「合理的配慮」を知っていますか? 厚生労働省
参考:「合理的配慮指針(概要)」 厚生労働省
参考:「障害者差別解消法に基づく基本方針の改定」内閣府
【関連記事】:「合理的配慮とわがままの違いは?10の実例を交えてポイントを解説」
なお、企業に過重な負担となっているかは、以下のような項目から個別で判断をします。
・生産活動にどの程度影響するか
・機器や設備、人手などを増やすなど実現することが可能であるか
・費用や負担はどの程度か
・企業の規模に適した負担の程度であるか
・企業の財務状況に適した負担の程度であるか
・公的支援を利用できるか
これらを踏まえ、「お互いに大きな負担がかからない」と判断された場合に、合理的配慮の提供がおこなわれます。
参考:「合理的配慮」を知っていますか? 厚生労働省
参考:「合理的配慮指針(概要)」 厚生労働省
参考:「障害者差別解消法に基づく基本方針の改定」内閣府
【関連記事】:「合理的配慮とわがままの違いは?10の実例を交えてポイントを解説」
就職するときに合理的配慮を実現するための流れ
企業に対して合理的配慮を求めたい場合、どのような流れで進めると良いでしょうか。合理的配慮を企業に求めるときの4ステップを紹介します。
採用時に合理的配慮を必要としている意思を伝える
まずは、採用時に障害者本人から、合理的配慮を求めることを申し出ます。伝え方は、採用面接のときに直接話したり、履歴書の本人希望記入欄に記載したりする方法があります。
特に精神障害は、障害の有無や困難さが周囲に分かりづらいため、意思表示が重要です。仕事をする上で「自身が困難になること」「それについて自己対処できること」「自己対処が難しい場合に、企業側の対応があれば解決できること」の3つを伝えておきましょう。この3つを具体的に伝えることで、企業側も適切な配慮を見つけやすくなります。
伝え方によっては、合理的配慮として求めることが「わがまま」や「甘え」と捉えられてしまうこともあるでしょう。「担当の人から積極的に声をかけてほしい」ではなく、「定期的に面談や相談の場を設けてほしい」など、伝え方も重要です。就労移行支援事業所などを利用している場合は、どのような配慮が適切かを支援員と相談できます。自身の障害特性を踏まえて、求める対応を検討しましょう。
特に精神障害は、障害の有無や困難さが周囲に分かりづらいため、意思表示が重要です。仕事をする上で「自身が困難になること」「それについて自己対処できること」「自己対処が難しい場合に、企業側の対応があれば解決できること」の3つを伝えておきましょう。この3つを具体的に伝えることで、企業側も適切な配慮を見つけやすくなります。
伝え方によっては、合理的配慮として求めることが「わがまま」や「甘え」と捉えられてしまうこともあるでしょう。「担当の人から積極的に声をかけてほしい」ではなく、「定期的に面談や相談の場を設けてほしい」など、伝え方も重要です。就労移行支援事業所などを利用している場合は、どのような配慮が適切かを支援員と相談できます。自身の障害特性を踏まえて、求める対応を検討しましょう。
企業とどのような配慮が可能か話し合う
次に、希望する配慮事項について企業と話し合います。企業が負担となる要素は、人手やコスト、業務への影響度などさまざまです。求めた配慮の実現が難しい可能性もあるでしょう。先述したように、配慮による負担がどちらかに偏らないよう話し合うことが大切です。
合理的配慮を実施するための準備をする
配属時には、企業側から配属先部署の上司や同僚に配慮事項を共有し、理解や協力を求めます。プライバシー保護の観点や、円滑に配慮を受けるためにも、「配慮の受け方や、配慮内容を誰にどこまで伝えるか」は、明確にしておきましょう。
また、同じ部署にサポート担当者を配置してもらうなどフォロー体制を整えてもらうことで、問題が生じた場合にもすぐに相談しやすいでしょう。
また、同じ部署にサポート担当者を配置してもらうなどフォロー体制を整えてもらうことで、問題が生じた場合にもすぐに相談しやすいでしょう。
行ってきた配慮の見直し・改善をする
合理的配慮の内容を、定期的に見直し・改善していくことも大切です。時間が経つにつれて、障害の状態が変化することや、緊張感の緩和、業務の習得状況によって、配慮の必要頻度が変わることもあるでしょう。長くはたらくことや安定してはたらける環境を整えるために、「配慮事項は現在も適切か」「新たな支障が生まれていないか」などといったことを確認しましょう。
定期的な面談の機会を設けてもらえると、見直しや改善が行いやすいです。お互いに状況を共有して、そのときに応じた適切な配慮へと改善できると良いでしょう。
定期的な面談の機会を設けてもらえると、見直しや改善が行いやすいです。お互いに状況を共有して、そのときに応じた適切な配慮へと改善できると良いでしょう。
企業がおこなう合理的配慮の具体例
企業では実際にどのような合理的配慮を実施しているのか気になる人もいるでしょう。募集・採用時および採用後に分け、合理的配慮の提供事例を紹介します。
視覚障害の場合
視覚障害の人は、全盲や弱視、見える範囲が限定された視野搾取など、障害の状態や程度がさまざまです。また、光や明るさによって見えづらさや目の痛みを感じる人もいます。
■募集・採用時
バリアの例 | ・全盲で紙に記載された募集内容が読めない ・弱視で読むのに時間がかかる場合 |
---|---|
合理的配慮の例 | ・すべての通路や部屋の入口に、点字プレートを付けて、会議室名などがわかるようにした |
■採用後
バリアの例 | ・弱視で輪郭がぼやけて形を認識しづらい ・コントラストの差が小さく色が識別しづらい ・視野搾取でページのレイアウトを把握しづらい |
---|---|
合理的配慮の例 | ・本人用の資料だけ、大きく印刷する ・資料作成時に使用できる色数を社内ルールで決めている |
聴覚・言語障害の場合
聴覚障害には、小さな音が聞こえない、大きな音でもわずかに響きを感じるだけ、全く聞こえないなどさまざまです。また、耳が聞こえなくなった年齢や障害の原因、程度などによっても、聞き取る力や話す力が異なります。また、聴覚が過敏すぎて、甲高い音、大きな音、意識しないと聞こえづらいようなかすかな機械音等が気になってしまい、頭痛や不安が起きてしまう障害もあります。
■募集・採用時
バリアの例 | ・音に過敏で、小さな機械音等が気になって頭痛や不安が発生する |
---|---|
合理的配慮の例 | ・パソコンのチャット機能を活用して、スムーズな対話ができるようにした ・面接時には、エアコンや加湿器をとめて、静かな環境で面接を行った |
■採用後
バリアの例 | ・音に過敏で、小さな機械音等が気になって頭痛や不安が発生する |
---|---|
合理的配慮の例 | ・会議や打ち合わせに、チャットを導入した ・仕事中に耳栓の使用を許可した |
肢体不自由の場合
肢体不自由には、腕や手指、肘関節など上肢の障害、股関節や股関節など下肢の障害、座位や立位などの姿勢の保持が難しいなど体幹障害、脳性まひなどによる運動機能障害などがあります。
■募集・採用時
バリアの例 | ・移動距離が長いと体に負担がかかる |
---|---|
合理的配慮の例 | ・全ての試験が1つの会場で完結するよう配慮した |
■採用後
バリアの例 | ・車いすの移動により通路の幅や配置物が移動の支障となる |
---|---|
合理的配慮の例 | ・車いすでも容易にデスクにたどりつけるように、入口に近い席を用意した |
内部障害の場合
内部障害とは、体の臓器に障害があることです。心臓・肝臓・呼吸・膀胱・直腸・小腸・肝臓・免疫などの機能障害があります。これらの障害に共通しているのは、体力や運動能力が低下していることがあります。
■募集・採用時
バリアの例 | ・体力・運動能力の低下がある ・定期的な通院頻度が高い |
---|---|
合理的配慮の例 | ・体調が優れない場合は日時を再設定した ・人工透析など本人の通院に配慮した面接時間を設定した |
■採用後
バリアの例 | ・体調面から残業が難しい ・通院・服薬を要する |
---|---|
合理的配慮の例 | ・体調不良での欠勤・早退に柔軟に対応した ・通院日はフレックスタイムとし、適時に通院が可能とした |
知的障害の場合
知的障害のある人は、言葉を理解して気持ちを表現することや、相手の気持ちを察することなどが苦手な場合があります。また、文章の理解が苦手で視覚的指示の方が理解しやすい人など、障害の状態や程度によって求められる対応もさまざまです。
■募集・採用時
バリアの例 | ・面接官との意思疎通が難しい ・面接官が知的障害の特性をわからない |
---|---|
合理的配慮の例 | ・通常の面接よりも長めに時間をとり、ゆっくりと説明した ・集団面接を免除した ・労働条件通知書や就業規則などにルビを振った |
■採用後
バリアの例 | ・業務開始後すぐにさまざまな業務に対処することが大きなストレス・疲労となる ・体調や進捗の管理、数字を扱うなど苦手な作業がある |
---|---|
合理的配慮の例 | ・当初は業務量を少なくしたり、簡単な業務を担当したりして、本人の習熟度に合わせて業務量を増やした ・単純な作業の担当としている |
精神障害の場合
精神障害が起こるのは、うつ病などの気分障害やてんかん、統合失調症などさまざまな精神疾患が原因です。原因となる疾患によって、障害の特性や必要な配慮は異なります。
■募集・採用時
バリアの例 | ・面接官との意思疎通が難しい ・面接官が精神障害の特性をわからない |
---|---|
合理的配慮の例 | ・支援機関の職員から事前に本人の障害特性を確認しておき、面接時に本人に過度な負担がかからないように配慮した |
■採用後
バリアの例 | ・曖昧な状況にストレスを感じやすい ・工夫・応用が苦手 ・手を抜けず、常に緊張感を持ち続けている |
---|---|
合理的配慮の例 | ・定期的な面談の場を設けて、困りごとや不安がないか傾聴する |
発達障害の場合
発達障害は、自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害、学習障害などです。ほかにも、トゥレット症候群(チック)や吃音、発達性協調運動障害などもあります。複数の発達障害がある人や知的障害を伴う人もいて、障害特性はそれぞれ異なるため一人ひとりに合った支援が必要です。
■募集・採用時
バリアの例 | ・コミュニケーションに困難を抱えている ・集中力が途切れがち ・文章の読み書きや計算といった特定の分野が苦手 |
---|---|
合理的配慮の例 | ・曖昧な質問を避けて、意図が明確な質問を心がけること、また視線を無理に合わせないようにした。 ・緊張すると言葉が出にくくなるので、回答に時間がかかってもよい旨を伝えた |
■採用後
バリアの例 | ・急な予定変更、予想外の出来事に対応できず、パニックになってしまう ・決まった手順にこだわってしまい、作業に柔軟に従うことが苦手である |
---|---|
合理的配慮の例 | ・その日の作業予定を、毎朝わかるように伝えて、安心してもらう ・毎週の作業予定をルール化する。予定変更するときは、余裕をもって伝える |
難病に起因する障害の場合
難病には非常に多くの種類があります。しかし、共通しているのは時間帯や病状によって、本人の体調も変化することです。
■募集・採用時
バリアの例 | ・発話が難しく、意思疎通が難しい ・難病による障害特性を面接官がわからない |
---|---|
合理的配慮の例 | ・時間をかけて本人が話す内容を聞き取るようにした ・面接時に就労支援機関の職員の同席を認めた |
■採用後
バリアの例 | ・疲れやすさや関節の痛み、腹痛などの症状がある ・体温調節が苦手、食事制限のあるなどの特性がある |
---|---|
合理的配慮の例 | ・重い荷物を運ぶなど難病によりできないことは、そのような業務がない部署に配属する、担当としない、他の社員がおこなうなど、周囲がフォローする体制とした ・体温調節が難しいため、ヒーターなどを近くに置いた ・食事が少しずつしかとれないため、昼食を3回に分けて食べられるように配慮した |
高次脳機能障害の場合
高次脳機能障害とは、脳卒中や交通事故などで脳を損傷したことにより、失語症や注意障害、記憶障害、遂行障害などのさまざまな症状が起こることです。それぞれの障害特性によって、必要な配慮が異なります。
■募集・採用時
バリアの例 | ・過去の経歴や状況を、その場で思い出して話すことが難しい |
---|---|
合理的配慮の例 | ・履歴書や職務経歴書、メモなどをみながら返答することを許可した |
■採用後
バリアの例 | ・新しいことを覚えることが難しい ・同時に複数の作業をこなすことが難しい ・意図した動作をおこなうことが難しい |
---|---|
合理的配慮の例 | ・指示出しをする担当を決めて、誰に質問や相談したらよいかを明確にする ・ひとつの業務を覚えてから、次の業務を増やすようにする |
必要な合理的配慮を考え、はたらきやすい環境を整えよう
障害のある人の障壁を取り除くために配慮する取り組みのことを「合理的配慮」といいます。障害の特性によって社会的障壁を感じている人も、合理的配慮を行ってもらうことで、公平な機会を得ることにつながるでしょう。合理的配慮が必要な場合のステップや事例を参考に、配慮の求め方や内容を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。
アクセスランキングAccess Ranking
-
No.1
-
No.2
-
No.3
アクセスランキングAccess Ranking
-
No.1
-
No.2
-
No.3