基礎知識

公開日:2021/10/19更新日:2024/2/9
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就職ガイド –はたらく選択肢-

双極性障害の人の仕事選び。「続かない」悩みに産業医がポイントを解説

双極性障害の人の仕事選び。「続かない」悩みに産業医がポイントを解説

双極性障害の方が就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。「仕事が続かない」「休みがちになってしまう」と悩みを抱える方に向けて、産業医科大学教授、江口尚先生の解説のもと、双極性障害の基礎知識のほか、おすすめの仕事や仕事選びのポイントを解説します。長くはたらき続けるためのコツなども紹介するので、参考にしてください。

双極性障害について

躁状態とうつ状態を繰り返す「双極性障害」の主な症状や発症要因、治療方法について解説します。「うつ病」との違いについても見ていきましょう。

双極性障害の主な症状

双極性障害は、躁状態とうつ状態が交互に表れ、気分のアップダウンを繰り返す障害です。

躁状態のときには、気分が高ぶり活動的になるだけでなく、気持ちが大きくなるためギャンブルや大きな買い物で散財するといった行動を起こすこともあります。本人は気分がよく、病気の自覚がないのが特徴です。生活する中で、嬉しいことや嫌なことを感じるなど「気分の波」は誰にでも起こります。しかし、双極性障害の躁状態では、周りの人が「いつもと違う」と気づくほど、気持ちや行動が大きくなっている場合もあるでしょう。

一方で、うつ状態のときには、憂うつで無気力な状態となり、食欲の低下や体が動かせずに寝て過ごすといった状態に陥ります。躁状態の自分の行動に対する自己嫌悪も加わり、うつ状態が悪化していくケースもあります。

双極性障害にはⅠ型とⅡ型があります。Ⅰ型は躁状態とうつ状態の差が極端に現れます。Ⅱ型は躁状態がやや見えづらかったり、躁状態が軽かったり(軽躁状態)するのが特徴です。
種類 特徴
双極性障害Ⅰ型 躁状態とうつ状態の差が激しい。
入院が必要となるケースもある。
双極性障害Ⅱ型 Ⅰ型と比べ、躁状態が見えづらい、または軽い。
入院するケースは少ない。

躁とうつの症状が現れる間隔は数カ月の場合もあれば数年の場合もあり、突然切り替わることもあります。一般的には、躁状態よりも「うつ状態」の期間の方が長く続く傾向があるでしょう。治療せずに放置していると再発の周期が短くなっていくおそれがあるため、適切な対応が必要です。

参考:「双極性障害(躁うつ病)|こころの情報サイト

双極性障害と「うつ病」の違い

双極性障害は、かつて「躁うつ病」と呼ばれていたため、うつ病と混同されがちです。しかし、うつ病の一種ではなく、この2つは異なる病気で治療も異なります。

うつ病との大きな違いは、躁状態が表れるかどうかです。うつ病は「一日中気分が落ち込む」「何も楽しめない」といったメンタル面の不調とあわせて、「眠れない」「食欲がない」など身体の不調が現れ、日常生活に支障をきたすのが特徴です。

それに対して、双極性障害はうつ病の症状をもつ“うつ状態”に加え、気分が高ぶる“躁状態”が現れるときがあります。うつ状態になってはじめて病院に行く人が多く、躁状態のときに治療を受ける機会は少ないため、「うつ病」と診断されてしまうケースもあります。そのため、医師による診断では丁寧に日常の様子をヒアリングして判断するのが一般的です。

双極性障害の発症要因

双極性障害は脳のはたらきを調節している物質が、異常に強くはたらいたり、逆に弱くはたらいたりして、バランスが崩れることで起こる病気です。遺伝的要素と、大きなストレスや生活習慣などの環境要因の両方が関係して、発症すると考えられています。

例えば、他人から見れば無理なはたらき方でも、本人はそのやり方が苦ではなく当たり前にこなしていたとします。しかし、大きなストレスがきっかけとなり、これまでのようにオンとオフを上手に切り替えられなくなり、自分でコントロールできなくなった結果、双極性障害を発症することもあります。

双極性障害の主な治療方法

双極性障害の主な治療方法は、内服治療です。躁状態のときとうつ状態のとき、症状が安定している時期で治療が変わります。また、内服とともにリハビリテーションを行うのも双極性障害の治療方法の特徴です。リハビリテーションは、決して完治するためのものではありません。

リハビリテーションの目的は、双極性障害を受容し、障害とのうまい付き合い方を知ることです。個人差もありますが、障害受容のためにまずは薬で症状を落ち着かせる方法もありますし、障害受容ができたことで継続的に服用できるようにもなるでしょう。内服治療とリハビリテーションは、ステップを踏んでというよりは、両輪で進めていくことが大切だと言われています。

中には、つらいうつ状態から軽躁状態になったタイミングで、服用を止めてしまう人もいるようです。軽躁状態のときは本人の感覚としては元気なので、元気な状態を薬によって抑えられてしまうのがつらいと感じてしまいます。しかし、服薬を止めると落ち着いた状態から、かえって症状が急激に悪化することもあるので、自己判断で服用を止めないようにしましょう。Ⅰ型とⅡ型では、薬の量が違う程度で、治療方法に違いはありません。

双極性障害の人が生活するために活用したいサポート

双極性障害の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療(精神通院医療)
     精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を
     補助してもらえる制度です。所得に応じて1月当たりの負担額が設定されています。
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
     税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的な
     サービスを利用することができます。
  • 生活費のサポート
    ・障害年金
    病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取る
    ことができる年金です。
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

双極性障害の人に対して周りの人が理解するべきこと

双極性障害の方を支える家族や周りの人は、どのような困りごとがあるのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの方が抱える課題

双極性障害の場合、躁状態のときは一日中しゃべり続ける、散財する、よくない商法に騙されるなど、周りの方が振り回されることが多いです。そのため、家族のメンタルヘルスが保たれないこともあるでしょう。障害のある本人を支えるためには、まず家族がメンタルヘルスを確保しなければなりません。日本人の多くは、身内の障害を他人に隠す傾向があり孤立しがちです。本人や家族だけで孤立しないよう、本人と一緒に通院したり、家族会に参加したり、信頼のおける人に相談できる環境を整えるとよいでしょう。相談先に迷う場合は、都道府県の精神保健福祉センターに問い合わせるとよいと思います。

家族ができるサポートについて教えてください

双極性障害は、自分ではなかなか気づきにくい障害です。家族など身近な人からの助言により、受診する場合が多くあります。また、もともと「うつ病」で通院していたが、症状が改善されないことから、詳しく日常生活についてヒアリングすると躁状態が表れていることがわかり、双極性障害と診断されることもあるようです。家族が診察に付き添い、家族の視点を医師に伝えられるとよいでしょう。一般的に受診のタイミングはうつ状態の時が多いために、医師が躁状態を確認できずに診断が遅れることもあります。躁状態になりそうな兆候が見られたら、頑張りすぎる前にブレーキをかけてあげるのも、家族や身近な人だからこそできるサポートの一つです。

双極性障害の方への接し方で、注意すべき点はありますか?

つ状態のときは、一般的なうつ病の方への対応と同じで「安易に励まさない」ことが大切です。特別に明るく接する必要はなく、発症前と同じように変わらず接するとよいです。

躁状態のときの言動を責めないようにも注意してください。うつ状態のときには、できるだけ休養をとることが必要です。躁状態のときには、普段と様子が異なることを素直に伝えてあげましょう。双極性障害の方は、自分が躁状態にあることに気づきにくいため、身近な人が第三者目線で伝えてあげるとよいです。

双極性障害の人の仕事探しのポイント

双極性障害の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

双極性障害の人におすすめの仕事や、注意が必要な仕事はありますか?

双極性障害の方は、生活リズムが乱れやすい交代勤務のある仕事や、長距離の運転が伴う仕事は注意が必要です。躁状態のときに運転すると、気持ちが大きくなり、危険な運転をしてしまい事故につながる可能性もあります。生活リズムで特に気をつけたいのが徹夜です。たった一晩の徹夜でも、躁転してしまう場合があるので、夜勤勤務などは避けた方がよいと思います。

できるだけ大きな波のない、毎月決まった仕事や定型的な仕事の方が安心でしょう。もちろん、本人の意向やその時の症状を確認しながら、できる仕事を担えばよいと思います。来客が多い環境であったり、臨機応変な対応が求められたりといった、自分でコントロールが難しい部分のある仕事は注意が必要です。

双極性障害の方が就職活動をする上で、大切にすべきことは何でしょうか?

双極性障害の方の就職活動では、繁忙期・閑散期など波が大きくない仕事であることや、残業が多すぎない仕事であることを重視すべきだと思います。生活リズムを崩すことなく、安定したリズムで仕事ができる環境が安心でしょう。就労経験のある方であれば、自分の経験を活かせる職業に就きたいと考えますよね。本人がやりたい仕事について、家族や身近な人に相談することで、可能性を過剰に排除することも抑制することもなく、一緒に可能性を見つけていくことができると思います。就労移行支援事業所などを利用している場合は、支援員と相談しながら、就職活動を進めるとよいですね。

双極性障害の人のはたらき方の形、仕事を続けるコツ

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。双極性障害の方が、障害と向き合いながら仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

双極性障害の方が、長くはたらき続けるために必要なことは何でしょうか?

最も大切なのは、障害者本人が障害を受容しており、自身の障害についてきちんと説明できることです。忙しいときでも自分の状態をしっかりと周囲に伝え、無理をし過ぎないようにしましょう。自分のペースを保持しながらはたらける環境を、自分で作っていくことが、長くはたらき続けるためには必要です。

自分の状態を定期的にチェックし、記録することも有効でしょう。その日の疲れ具合や、躁状態に近いのかうつ状態に近いのか、睡眠時間はどのくらいかなどを記録できると、自身の状態を客観視できます。日記をつけるのが億劫であれば、活動量を可視化するために歩数計で確認したり、スマートウォッチを用いて睡眠時間を記録したり、感情を記録するアプリを用いたりすることも有効だと思います。

うつ状態のときは仕事に行きたくない…双極性障害でもどうすると長期就労を目指せるでしょうか?

まずは採用面接の際に、自分の症状をきちんと伝えることが大切です。双極性障害の方を雇ったことのない職場であれば、不安もあるかもしれません。自分の言葉で状態を説明し、受け入れてもらえる環境であれば長期就労が可能でしょう。定期的に面談の機会を設けてもらい、自身の状態について伝えられるとよいですね。

親しい友人や家族に、普段と変わった様子が見られたらフィードバックしてもらうようお願いしておくのもよいでしょう。周りに多くのサポーターを確保しておくことが、より長くはたらくことにつながると思います。

双極性障害に向き合い、自分にあった仕事を探そう

双極性障害の方におすすめの仕事や、長くはたらくためのコツなどを紹介しました。これまで、「仕事が続かない」「少しずつ休みがちになった」など、はたらき続けることの難しさを感じたことがある人もいるでしょう。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。仕事探しに悩むときや独りではどうしたら良いかわからないときは、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けることもよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。