就職事例

公開日:2021/10/26更新日:2023/3/29
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「はたらくためには今の状態では難しい」就労移行支援を利用して変わりたい

事務職/IT業界
双極性障害の30代女性Mさんの就職事例

双極性障害の30代女性Mさんの就職事例

30代/女性/双極性障害

今回紹介するのは、双極性障害の30代女性の就職事例です。情緒不安定でほぼ毎日泣いていたというNさんが、ミラトレを利用して就職するまでのストーリーと現在の様子をご紹介します。

新卒入社のときから、泣いてばかりいたというNさん。いつからか残業することが楽しいと感じ、躁状態が顕著にあらわれるようになります。家族の勧めから病院を受診し、双極性障害と診断を受けました。泣いてばかりいたという状況から、躁状態があらわになる以前から、何かしらの障害が発症していたのではないかと予想されます。双極性障害との診断を受け、情緒の不安定が顕著だったことから、任意入院も経験されました。

双極性障害の診断を受けた後、障害者雇用枠での就労も経験されます。ご自身で色々と調べ、一人で就職活動を進めて、事務アシスタントの仕事に就きました。しかし、周囲への不満が募って3カ月で離職。その後アルバイトも経験されましたが、同じように一度「嫌だ」と感じることがあると我慢ができずに辞めてしまったそうです。

「はたらくためには今の状態では難しい」就労移行支援を利用して変わりたい

アルバイトの経験から、障害者雇用としてのはたらき方が合っていると考え、障害者向けの転職支援サービスに登録されました。すると、登録したエージェントより就労移行支援事業所の利用を勧められたそうです。「今の状態では求人を紹介してもらうのは難しいのだな」と感じ、いくつかの就労移行支援事業所を調べたり見学に行かれたりしました。そして、エージェントからの紹介を受け「ミラトレ」に見学に来られます。エージェントと連携している点や、事業所の環境面に魅力を感じたことに加え、自宅からやや離れているという立地が就職に向けた通勤訓練になると前向きに捉え、ミラトレの利用を決めたそうです。

見学後すぐに通所を開始したかったのですが、情緒があまり安定していない状況だったことから、今は就労移行支援を利用すべきではないとの医師の判断が下り様子を見ることに。支援員は最低3カ月はかかるだろうと予想していましたが、利用の意思が強かったためか、医師にも理解いただき1カ月後には通所を開始できました。

「自分を変えたい・変わりたい」内観のトレーニングで自分を見つめ直す

就職に対する希望もあらかじめありましたが、どれも理想が多く漠然としているものでした。その中でも「自分が変わりたい」という気持ちが強かったため、じっくりと自分を内観する時間を設けることにしました。前職を辞めた理由を振り返っても、「あの人は真面目にやっていない」「あの人は嫌なことをいつも言う」など、周りに目を向けて嫌だと思ったら感情を抑えられない点が大きな問題でした。そこで、なんでその人が嫌なのか、なぜそう思うのかを考えてもらいました。すると嫉妬や他責感が原因だったとわかったのです。自分をよく見せたい、認めてもらいたいといった承認欲求や嫉妬が大きくなり、相手が本当に嫌なことをしているわけではないのに、他人のせいにしていたのでした。

支援員は、自分に原因があると気づいてもらえるように、原因をどんどん深ぼって見ていくという形で対話を進めました。冷静に見ると、完璧主義な部分や自分を装う部分があり、自分に課題があったと気づきます。この内観のトレーニングは、泣くほど辛いものでしたが、変わりたいという強い意思を叶えるために、覚悟をもって取り組んでもらいました。

通所開始当初の様子やその後の変化

医師の判断により、当初の通所開始より1カ月遅らせての利用スタートとなりましたが、症状が少し落ち着いたタイミングもあり、週4日から利用してもらいました。ご本人は、はじめから週5日利用したいという希望がありましたが、完璧主義な特性を考え、あえて日数を減らしてのスタートとしています。週5日の利用からスタートすると、もし1日でも休んでしまうと自分を責めてしまうと考えたためです。安定してから、次は週5日にチャレンジしてみましょうと、無理をさせないよう工夫しました。

トレーニングの中では、話を聞きながら議事録を取るなど、何かをしながらもう一方のことを同時に行うことが苦手な様子が見られました。本人と支援員で原因を考えていくと、できる自分を装おうとしている、できたふりをしてできなくなっていることがわかりました。できない自分を認めてあげること、そして周りに助けてもらう術を身に付けてもらうようにトレーニングを重ねます。

最初の頃は、ほぼ毎日泣いていたため、面談の時間を多く設けました。支援員との対話を通して、気持ちや思考の整理をしてもらいます。面談の機会も徐々に減らしていき、面談室に一人でこもり、自分一人で整理できるようになっていきました。疑似就労の時間も、何かのきっかけで感情の浮き沈みが見られた際には、きちんと状況を報告してから疑似就労を抜け、整理してから戻ってもらうようになりました。

内観のトレーニングが効果を発揮し、軸がぶれずに進められた就職活動

安定通所ができていたことから早く就職したいという希望がありましたが、情緒不安定さが残っていたため、「泣かなくなって3カ月」経ったら就職活動を始めるという目標をご本人と立てました。情緒不安定になったり、周りが気になって嫌だという感情が高ぶったりすることもありましたが、そのような状況になった際に自分で戻せるようになります。これまでは泣いたり落ち込んだりしていた場面ですが、客観的に捉えてその場面を振り返り、その時の状況を笑って話せるようになったため、就職活動を始められると判断しました。

就職活動においては、自分の障害特性や配慮面について、軸がぶれることなく伝えられました。面接練習で質問の角度を変えても、誰が面接官となっても、自分の状況を伝えられ、等身大の自分を表現できたのです。ミラトレへの通所が通勤練習になると捉えてくれていたことから、朝早くても遅刻しない、通勤距離も問題ないという点は、就職活動でも大きな強みとなりました。また、面接後のお礼メールやその後の連絡などのやり取りも丁寧で、真面目できちんとしているところも就職活動をする上でプラスに働きました。そして、就職活動開始からわずか1カ月半で内定を得ます。ミラトレ通所開始から10カ月後のことでした。

背伸びせず、今の自分に合った企業へ就職

現在は、大手IT関連企業で5年間の有期契約社員として、事務職に就いています。当初転勤があると企業側からは言われていましたが、就職してくれるならば地域限定職として業務を切り出すと言ってもらえました。また、大手企業なので福利厚生がしっかりしている点も決め手となり、就職を決めました。

企業側には、あらかじめ業務を依頼する際には優先順位を明確にしてほしい、慣れるまでは作業に時間がかかることもあるので理解してほしい、離席することもあるかもしれないが自分で対処できるので見守ってほしい、暇になると不安になるので手が空かないように細かな業務も任せてほしい、などの配慮事項を伝えています。

就職後の定着支援の中では、業務に関する質問をする際にかっこつけた聞き方をしてしまい、余計わからなくなってしまったとの報告がありました。しかし、自分に原因があることにきちんと気づけたようです。相談するタイミングがわからないといった悩みもありましたが、支援員が間に入り、いつでも質問してくださいと言われたようです。職場の雰囲気も職場の人たちも温かく、業務に悩んでいるときに先輩社員が新人時代のノートを見せてくれたのが嬉しくて泣いてしまったとの話もありました。

次のステップを見据えた基盤を作りたい

職場の方に温かく対応してもらえており、肩肘張らずに甘えられるところが企業とフィットしているポイントだと感じています。ミラトレと職場も近いため、いざとなったら駆け込める安心感もあるようです。現在は、仕事とプライベートをうまく使い分けている様子のNさん。

現在の職場には5年間という契約期間の縛りがあるため、この期間にステップアップに向けた基盤を作りたいとも話しています。ミラトレで培った「他者と比べない」「自分を褒める」を継続して実践しながら、自身の興味分野である英語とPCのスキルアップを図り、将来的にこれらを仕事に結び付けられるようになりたいそうです。ミラトレを利用して、自分でも変化を感じられているとも話してくれており、情緒不安定の要素であった「できない自分」を許せるようにもなりました。

※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。