基礎知識

公開日:2022/4/20更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、基礎知識や仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

目次

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の基礎知識

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)とは、コミュニケーションをとる上で必要な発達が不十分であり、自分の関心を突きつめる志向が強いことを特徴とする発達障害です。
これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称で呼ばれていましたが、現在はASDとしてまとめて表現されています。

生まれつきの特徴のため、幼少期に診断を受けることが多いですが、大人になってから判明するケースもあります。子どもの頃は「子どもだから」と大目に見られていたことが、社会人になり仕事面でのトラブルなどから、ASDを疑い診断を受けることがあるためです。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の主な症状

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方に多く見られるのが、コミュニケーションの問題です。相手の立場に立って考えることが苦手であったり、言葉のニュアンスや表情から状況を察することが難しかったり、社交辞令や冗談が通じなかったりする場合もあります。
また、相手と視線を合わせられない、焦点が定まらない、身振り手振りを理解できないといった特徴も見られます。

コミュニケーションの問題以外にも、同じ行動を繰り返す、単純作業を極端に好む、特定のことへの興味やこだわりが強いといった行動のユニークさが見られます。
その他、視覚や聴覚、嗅覚、触覚、味覚などの感覚に敏感さや鈍感さがあらわれることも多いです。例えば、太陽や照明の光が異常にまぶしく感じられたり、タバコや化粧品、インクなどのにおいを感じると体調が悪くなったりする方もいます。

反対に感覚が鈍感であり、空腹感や疲労感を感じにくい、熱いものに触れても気づかないといった特徴のある方もいるのです。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の要因

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)は、先天的な脳の機能異常により引き起こされると考えられています。胎児の頃の影響や分娩時の低酸素による影響などが、関係する場合もあるようです。
また、遺伝的な要素も発症に関与すると推定されています。ただし、何がきっかけとなりASDの特徴があらわれるかは定かではありません。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の主な治療方法

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)は、「個性」の一つです。治療により治るものではないことを前提に、社会生活を送る上での困難さを軽減するための手段として、「療育」という方法を実施します。療育では、自分の特性を知った上で、社会への適応方法や、他の人が感覚で理解できることなどを、学びを通して理解できます。

大人になると変化への対応が難しく、さまざまな困難を経験したストレスなどから頑なになりがちなため、できるだけ早い時期から始められるとよいとされています。
しかし、年齢を重ねたからといって療育ができないというわけではありません。実際、大学生を対象としたソーシャルスキルトレーニングなどもあります。ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは、人と人とが関わりながら生活していく上で必要とされる能力を身につけるための訓練です。

その他、就労移行支援事業所や障害者職業センターなどでも、ソーシャルスキルトレーニングを受けることが可能です。
発達障害に詳しいクリニックなどでのカウンセリングも、自己理解・障害理解を助ける上で有効です。

ASDそのものに対する薬はありませんが、二次的に不眠や抑うつなどの症状がある場合には、それに応じた薬を服用し、症状を和らげることが可能です。

生活するために活用したいサポート

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

職場の産業医や学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。勤務先が産業医を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談できます。
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 生活費のサポート
    ・障害年金
    病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる年金です
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方は、独特なコミュニケーションや行動をとることが特徴です。本人の気持ちを理解し何でも肯定するような関わり方よりも、家族や周りの方は本人が自分で気づきを得られるよう促すことが大切だと考えます。
どのような関わりができるか悩む場合は、主治医の先生や支援センターなどに相談し、本人との接し方を学ぶとよいでしょう。

ASDは、人によっても特徴のあらわれ方がさまざまなので、本人の状況に応じた対応を学ぶとよいと思います。そのためにも、医療機関や発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)などの相談機関で、専門家の意見を聞いてみてほしいです。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方への接し方で、注意すべき点はありますか?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方と接する際、過剰に気をつけなければならないことは特にありません。ただ、少しコミュニケーションをとりづらい可能性もあると認識して接することが、時には必要かもしれません。前提として捉えておけば、トラブルを減らすことにもつながるでしょう。

対人コミュニケーションにおいては、誰しもがトライ・アンド・エラーで接し方を学んでいくところがあると思うので、ASDの方と接する際にも、さまざまな方法を試しながら、お互いにとってストレスの少ないコミュニケーションを模索してほしいです。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方の就職に向けて、家族はどうサポートしたらよいでしょう?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方の就職に向けて大切なのは、本人が自分の強みや課題を認識することです。自分の強みをしっかり発見し、苦手な点を具体的に整理できると、就職活動も進めやすくなります。

家族は、本人が強みや課題を見つけられるよう、客観的にフィードバックするとよいでしょう。周囲は苦手な点に目が向きがちです。意識的に本人の強みも意識してフィードバックしましょう。
どのように伝えればよいか悩む場合は、病院やさまざまな支援機関に本人と一緒に訪れ、相談できればよいと思います。

仕事選びのポイント

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の特徴はさまざまですので、本人に合った仕事がはたらきやすさにつながると考えます。自分の強みを整理した上で、強みをいかせる仕事に就けるのが理想です。例えば、単純作業を好む特徴のある方だったら、単純作業を根気よく繰り返すような仕事が、自分の強みもいかせてはたらきやすいかもしれません。

特定のものごとへの興味やこだわりが強い場合、細かな部品の管理などで力を発揮できることもあります。自分に合った仕事を見つけるため、まずは、しっかりと自分の強みを認識することが大切です。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方は、変化の多い仕事に就くことに難しさを感じる場合が多いです。仕事の手順も、自分で決めたルールに沿って進めるなど、強くこだわる傾向があります。
急に手順を変えなければならなかったり、新たな作業を追加せざるを得なかったりする状況には、うまく対応できない場合が多いです。そのため、さまざまな人に対応しなければならない接客業なども注意が必要でしょう。

ただし、イレギュラーが発生した場合には別の人が対応を担ってくれる、接客業の中でも単純作業を中心におこなうなどの配慮に対応できる場合であれば、はたらくことが可能です。
そのためには、自分に必要な配慮事項を、きちんと言語化して職場に求めることが大切でしょう。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が長くはたらき続けるためには、自身の障害をきちんと受け入れられていることと、自分の特徴を職場に伝えられることが大切です。
得意なことと苦手なことをきちんと整理し、必要な配慮を職場に伝えましょう。

例えば、音や匂い、光などの刺激に対して過敏に反応してしまい、仕事に支障が出てしまう場合には、それらを緩和できる環境の工夫を求めるとよいです。苦手なことについては、職場に配慮を求めるだけでなく、自身でトレーニングすることにより、対処できるようになる場合もあります。

就労移行支援事業所や障害者職業センターなどでの、ソーシャルスキルトレーニングも有効でしょう。

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が、はたらけなくなる状態を避けるためにはどうすればよいでしょう?

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方は、仕事上のトラブルなどが原因で、二次的に抑うつなどの精神症状があらわれることもあります。症状が重くなると、はたらけなくなる場合もあるでしょう。

そのような状態を避けるためには、自分と職場の相性を考えて就職することです。実際にはたらいてみないとわからないこともありますが、うまくいかないことなどがあれば、家族や支援者に相談するとよいでしょう。

もし、ASDの特徴が強くあらわれるようになったり、不眠や食欲不振などの抑うつ症状があらわれたりした場合には注意が必要です。そのような症状が出た場合には、主治医に相談して、ストレス源を突き止める、休職するなどの対応を考えなければなりません。
とは言え、自分では気づけない場合もありますので、家族や周りの方に指摘してもらえるよう伝えておくとよいでしょう。

まとめ

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。一人ではどうしたらよいかわからないときは、精神科や心療内科といった医療機関、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けるとよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。