就職事例

公開日:2021/7/26更新日:2023/3/29
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2カ所目の就労移行支援事業所への期待

事務職/食品業界
ASD(自閉症スペクトラム)の30代男性Kさんの就職事例

ASD(自閉症スペクトラム)の30代男性Kさんの就職事例

30代/男性/自閉症スペクトラム

今回紹介するのは、ASD(自閉症スペクトラム)のある30代男性の就職事例です。就労移行支援事業所を利用して就職したものの、契約満了で退職となってしまったKさんが、ミラトレを利用して就職するまでのストーリーと現在の様子をご紹介します。

就労移行支援事業所を経て就職したものの、スキル不足から契約更新に至らなかった

大学時代の就職活動がうまく進まなかったKさんは、他の人と少し違うのではないかと疑念を持っていたそうです。大学卒業後は契約社員としてはたらいていましたが、転職を決意した際、自治体の「若者就職支援センター」に相談へ行かれます。これまでの様子を聞いたセンターのスタッフから「もしかしたら発達障害があるのではないか」と指摘され、病院を受診すると「自閉症スペクトラム」と診断を受けました。これまでも周囲とのコミュニケーション面において、困りごとや嫌な経験をしていたため、診断を受け、しっくりきたと言います。

契約社員としてはたらいていた際、作業が遅かったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりといった課題を感じていました。自閉症スペクトラムの診断と、「若者就職支援センター」からの勧めもあり、就労移行支援事業所を利用して就職を目指すことにしました。そして、障害者雇用枠で再び契約社員として就職をされましたが、契約満了で退職されたそうです。作業が遅い上に、やりきらないとスッキリしないため残業も多かったことから、スキル不足を指摘されてしまったと言います。

2カ所目の就労移行支援事業所への期待

再就職を目指すにあたり、就労移行支援事業所の利用を考えたKさんは、以前利用した事業所だけでなく、他の事業所も検討することにしたそうです。そのような中、ミラトレにも見学に来ていただきました。当時見学された事業所が、オープンしたばかりで少人数だったことや、疑似就労の時間に実際の就労体験ができる点などに期待感を持っていただけたようです。その結果、2カ所目の就労移行支援事業所として、ミラトレを選んでいただきました。

苦手を克服し、しっかりと就職の準備をしたいと希望

利用開始当初、まずは事業所の雰囲気に慣れ、対人スキルを身に着けたあとで就職したいという希望がありました。そのため「メンタルケア講座」や「グループでのコミュニケーションワーク」を受けていただき、自身の特性について気づけるような工夫をおこないました。

障害受容の点において、自分の苦手なものは理解できているものの、対処方法まではわかっていなかった様子でした。空間認知が苦手とされる自閉症スペクトラムの方の特徴が、特に顕著に表れており、手先を使った事務作業が苦手な様子がありました。そこで、疑似就労の中では意識的に取り入れるようにしました。また、家族と共に暮らしていたため、生活していく上で必要な自立訓練が不足しているようでしたので、紐などを使用した作業にも取り組んでもらいました。疑似就労の中では、紙を折る、印鑑を押すといった手先を使う事務作業に対しても、苦手だから諦めるのではなく、積極的に何度も挑戦している様子が見られました。そして徐々にできるようにもなっていったのです。

一方で数値化できないものが苦手な様子も見受けられました。「だいたい」や「これ位」という指示を理解するのが難しかったため、「これなら70点」などと点数化することで支援員との認識をすり合わせるようにもしました。他の利用者とは積極的にコミュニケーションをとる姿勢が見られましたが、他人との距離感が掴みづらい部分もあったためか、特定の利用者に関わりすぎてしまい相手から拒絶されてしまうということも経験されています。このことをきっかけに、少し体調を崩されたりもしましたが、自分の中に芽生える苛立ちとの向き合い方なども、個別の面談を通してフィードバックし続けました。

通所開始当初の様子やその後の変化

利用開始当初から、休みも遅刻もなく通所することのできたKさん。初日にはスーツ着用で通所される程、張り切ってご利用いただけていました。ミラトレを利用する中で障害に対する自己理解が深まったと感じています。自分にどのような仕事が向いているのか判断ができるようになり、もともとはPCスキルを活かした仕事がしたいと希望されていましたが、作業系の方が自分に合っているのではないかという認識に変わっていったようです。疑似就労のトレーニング内容も、それに合わせていきました。

支援員からの指示の伝え方は、最後まで苦労した点と言えます。「ちょっとこれお願い」だけだと困惑して動けなくなったり、機械を運ぶ際に体重のかけ方がわからず失敗してしまうといったこともありました。

面接の上手さが強みとなった就職活動

通所から時間も経過し、支援員からの「そろそろ具体的な求人情報をみていきましょうか」という声がけから、就職活動がスタートします。まずは実習に行ってみましょうというタイミングでしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、実習が中止となってしまいました。実習に行くことは叶いませんでしたが、応募書類の作成や面接練習などに取り組んでもらいます。

Kさんは、自分の気持ちを文章化することが苦手なため、応募書類作成時、特に志望動機の書き方に苦労しました。支援員からの修正を入れるなどして、書類を作成していきます。反面、面接は最初からとても上手でした。自己アピールでもうまく伝えられているなと感じることが多かったです。もともと話すことが苦手ではなく、面接は自分の強みを発揮できる場となりました。

志望職種に関しては、事務系から作業系など二転三転しましたが、最終的に立ち仕事が自分には向いていると気づいた様子が見られました。そして、ミラトレ利用開始から約1年後、障害者向けの転職エージェントからの紹介で応募した企業から、見事内定をもらうことができました。

企業からのフィードバックを素直に受け止められる

食品会社の嘱託社員として、宅配物の仕分けなどをする仕事に就きました。集中力が続きやすそうな立ち仕事であることや、以前の職場でも重い荷物を運ぶ作業をしていた経験を活かせるのではないかという思いから、こちらの企業を希望されました。選考の過程で、3日間程の企業実習にも参加しましたが、企業からは集中力が途切れることがあると指摘をされてしまいます。ミラトレのトレーニングの中でもそのような様子が見られましたので、正直に本人に伝え、窓の外などをあまり見ないようにとアドバイスしました。

就職先の企業は、障害者雇用での採用が初めてという企業だったため、担当者からも多少の不安の声を聞きました。ミラトレでの様子について共有するとともに、「集中力が途切れやすい」という特性や、そのときに本人が感じていること、仕草として表れることなどを伝えました。そして、そのような様子が見られたら声がけしてほしい旨も伝えています。

就職後の定着支援の中で、本人から明確な相談はほとんどありませんでしたが、業務上のミスが出てきたり、体調を崩して数日休んだりといったことがありました。支援員も企業の担当者も、共に手探りの状況が続きましたが、企業側からのフィードバックを伝えると、素直に受け止めようとする真摯さがあり、徐々に環境に慣れていったようです。

信頼してもらえる存在となり、長くはたらきたいと前向き

ミスはあるものの、勤怠が安定している点が大きな強みとなっています。フィードバックやアドバイスを素直に受け止め、向上心があるところも評価されているようです。就職当初に担っていた荷物を届ける作業が、ミスから怪我へとつながる危険性のあるものだった点が考慮され、現在は備品発注という別業務を切り出してもらっています。そこでは、面倒見のよい先輩社員がフォローしてくれているようで、本人も前向きにはたらけているとのことです。

今後は、一人で任せてもらえる仕事を一つずつでも増やしたい、部署の中で信頼してもらえる存在になり長くはたらきたいという希望を持っています。将来的に一人暮らしをすることを目標に、家計簿をつけることも始めたようです。

ミラトレを利用し、疑似就労を体験できた点やスタッフの対応がきめ細やかだった点に非常に満足されていると話してくれたKさん。2カ所目の就労移行支援事業所として、ミラトレを選んでよかったとおっしゃっています。

※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。