基礎知識

公開日:2022/6/17更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

LD(学習障害)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

LD(学習障害)の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

LD(学習障害)の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、LD(学習障害)の基礎知識や仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

LD(学習障害)の基礎知識

LD(学習障害)とは、「読む」「書く」「計算する」などの能力に困難が生じる発達障害の一種です。知的発達に遅れはないものの、読みや書き、計算など特定の課題の習得だけが、他に比べてうまくいかない状態を指します。学校での学習到達度に、1~2学年相当の遅れがあるのが一般的です。

LD(学習障害)の主な症状

LDには、「読み書き障害(ディスレクシア)」「書字表出障害(ディスグラフィア)」「算数障害(ディスカリキュア)」の3つのタイプがあります。読み書き障害(ディスレクシア)は、読むことが苦手なタイプです。音読が遅く、文章の区切りがおかしかったり、読み飛ばしてしまったりといった特徴がみられます。ひらがなの「ろ」と「る」など、形の似ている文字を読み間違えてしまうこともあります。通常、読み能力だけでなく書字能力も苦手とされます。

書字表出障害(ディスグラフィア)の方は、文字や文章を書くことに困難が生じます。しかし、字が全く書けないわけではありません。左右が反転した鏡文字になってしまう、人が書いたものを書き写すのが苦手、漢字をなかなか覚えられないといった症状が特徴です。

算数障害(ディスカリキュア)は、算数や計算が苦手なタイプです。数に関することで困難に感じることが多く、一桁の足し算・引き算の暗算が苦手、繰り上がり・繰り下がりができない、九九が覚えられないなどの特徴があります。その他、時計が読めない、図形の模写が苦手という特徴があらわれる場合もあります。

LDの方は、これらが全くできないわけではありませんが、人より極端に遅かったり、苦手だったりします。3つのタイプの特徴全てが、同じように顕著にあらわれるわけではありません。1つの症状が目立ったり、他の症状は全くあらわれなかったりする場合もあります。

LD(学習障害)の要因

LDの要因は、先天性の脳の機能障害や中枢神経の機能不全などといわれていますが、はっきりとは解明されていません。遺伝的な要素と環境的要因の組み合わせによるものではないかと考えられていますが、明確な要因として挙げられるものは、現段階ではないようです。

LD(学習障害)の主な治療方法

LDは治療で治るものではありません。そのため薬物療法ではなく、対処行動を学ぶ中で困難さを軽減していく方法が取られます。発達障害専門のクリニックや患者会でのコミュニケーション、本を通してもそれらを学ぶことが可能です。

「読む」「書く」に困難さのある方でしたら、パソコンやスマートフォンの音声読み上げ機能や音声入力ツールを活用すれば、困難さを軽減できるでしょう。これらの代替ツールや録音図書などを活用すれば、本や新聞も読めるようになります。

「計算する」ことに困難さがあるのであれば、スマホの電卓機能などを活用すれば、日常生活の困りごとの軽減につながりそうです。

生活するために活用したいサポート

LD(学習障害)の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

職場の産業医や学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。勤務先が産業医を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談するとよいでしょう。
  • 発達障害者支援センター
    発達障害者への支援を総合的に行う専門的機関です。
    ADHDを含む発達障害者と、その家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害者とその家族からのさまざまな相談に応じ、指導と助言を行います
    ・発達障害支援センター
     └発達障害支援センター一覧
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 生活費のサポート
    ・障害年金
    病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる年金です
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

LD(学習障害)の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

まず、LDは頑張ってどうにかなるものではないことを認識しましょう。努力すれば改善する、できるようになると考える方も多いのですが、生まれ持っての特性と認め、受け止めてあげることが重要です。

そのためにも、家族はなるべく早い段階で障害に気づいてあげられるとよいと思います。そして、医師からの診断を受けたら決して無理はさせずに、一緒にさまざまな対処行動を試してみるのもよいでしょう。

大人になってからLD(学習障害)を疑う方の特徴はありますか?

大人も子どもも症状は基本的に同じです。大人になってからLDではないかと指摘される方は、年齢にふさわしくないようなミスやケアレスミスを頻発するなどの特徴があります。また、マニュアルや指示書の読解力に乏しく、読んだだけでは仕事ができない人もいると思います。

学生時代の中ではなんとかなることも、社会に出ると許容されにくいことも多いかもしれません。LDに限らず、大人になってから発達障害の診断を受ける方も多くいます。疑問に思うことや困難さがあれば医療機関で診断を受けることをおすすめします。

LD(学習障害)の方の就職に向けて、家族はどうサポートしたらよいでしょう?

LDの方が就職を目指す場合、苦手なことを本人はもちろんのこと家族も認識しましょう。その上でどうしたらよいかを一緒に考えることが有効だと思います。本人と家族だけでは就労に向けた準備が難しい場合は、就労移行支援の利用も効果的でしょう。

本人の苦手を認識し、対処行動を一緒に考えた上で、配慮事項として企業に伝えるとよいと考えます。例えば、マニュアルが必要な仕事であれば、「マニュアルをじっくり読む時間を作ってもらう」「読む代わりに実際にやって見せてもらう」などが対処行動、配慮事項となります。

メモが苦手な場合は、録画や録音させてもらうなどもよいでしょう。本人の障害特性がはたらきたい職場でどのように影響すると思うか、家族間でしっかりと話し合うことをおすすめします。本人とサポートしてくれる人とが、一緒にコミュニケーションを取りながら対処方法を探っていくことは、結果として就職後のはたらき方にも役立つでしょう。

仕事選びのポイント

LD(学習障害)の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

LD(学習障害)の方が就職活動で大切にすべきことは何ですか?

LDの方が就職活動を進める上で大切なことは、自分の障害について自分の言葉でしっかりと説明できることです。「読む」「書く」「計算する」の苦手度合いについても、できないのか、時間をかければできるのかなど、違いを伝えることが重要です。

また、はたらく中でよく聞かれる声として、職場や業務に慣れてきた頃に上司が異動となり、再度はたらきやすい環境づくりを始めなくてはならないというものがあります。人事異動の伴う仕事であれば、上司だけでなく、周囲の同僚にも自分の特性について理解を促せるとよいでしょう。

LD(学習障害)の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

LDの方にとってはたらきやすいのは、自分の苦手な作業の少ない環境だと考えます。例えば接客業では、注文を受ける際はタブレット等の電子機器を使用するなら「書く」必要がなく、会計時にはレジを使用するなら「計算する」必要もありません。

手順を説明する動画などがあれば、「読む」ことも避けられます。そして、イレギュラーなことが起こった場合には、フォローしてもらうよう職場に伝えておくことが大切です。

また、LDの方はASDやADHDなど他の発達障害を併発している場合もあるので、それぞれの特性によっても変わってくることを理解しておきましょう。

LD(学習障害)の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

先ほどと反対に「読む」「書く」「計算する」が避けられない仕事は注意が必要です。マニュアルでしっかりと管理されている仕事や、デジタル化が進んでいない職場環境だと厳しい面があるかもしれません。自分で工夫して対処行動が取れるようであればよいですが、変化に対応しづらい職場だと困難さを感じることがあると予想します。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。LD(学習障害)の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

LD(学習障害)の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

LDの方が長くはたらき続けるためには、まずは自分の障害についてしっかりと理解することが重要です。その上で、自分のできる仕事と配慮が必要なことを職場に伝えましょう。

その際、一方的な要望とならないよう、企業側と本人が双方向でコミュニケーションを取りながら伝えることが大切です。安心して伝えられる環境づくりを、本人と職場の双方が意識できるとよいと思います。
困ったときに相談できるよう、人事や産業保健師ともコミュニケーションが取れるとさらによいです。

LD(学習障害)の方が、はたらけなくなる状態を避けるためにはどうすればよいでしょう?

さまざまな精神的ストレスから、二次的に抑うつや不安といった精神症状があらわれ、はたらけなくなるケースもあるかもしれません。そういった状態を避けるために、本人も工夫をこらしながら業務に向き合うことが大切だと思います。

自分の苦手なことに対処できるよう、さまざまなツールを活用するのも一つでしょう。また、上司や同僚、同じLDの方などからツールやノウハウを共有してもらうのもよいと思います。そして何よりも、困ったときに相談できる相談先を作っておくことが重要です。

まとめ

LD(学習障害)の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。一人ではどうしたらよいかわからないときは、精神科や心療内科といった医療機関、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けるとよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。