今回紹介するのは、ASD(自閉スペクトラム症)の20代男性の就職事例です。コミュニケーション面で課題のあったTさんが、自分に合う仕事・合わない仕事を認識し就職するまでのストーリーと現在の様子をご紹介します。
業務外のコミュニケーションが苦痛に感じ退職
大学生の頃、就職活動があまりうまく進まなかったTさん。特に、人とのコミュニケーションが苦手だと認識されます。本やインターネットなどで調べたところ、自分には障害があるのではないかと感じたそうです。病院を受診し検査を受けると、ASD(自閉スペクトラム症)であることが判明しました。
障害を認識された後も就職活動を進め、一般雇用枠で設計の仕事に就きます。業務自体は問題なくできていたものの、同僚との人間関係に悩むことが多かったそうです。世間話や飲み会などが苦手であるにも関わらず、職場は飲み会の頻度が高く、徐々に苦痛に感じていきます。2年程勤務しましたが、コミュニケーション面での苦痛から退職。一度準備期間を経て、障害者雇用枠ではたらきたいと考えるようになりま
コミュニケーションの課題をトレーニングで徐々に克服
前職を退職する前から、就労移行支援事業所について調べていた様子です。「自分に合った仕事や環境の中ではたらきたい」「自分に合う仕事は何なのか探したい」という思いから、就労移行支援事業所の利用を決められます。
他の就労移行支援事業所と比較し、立地的な通いやすさからミラトレの利用を決めていただきました。
通所開始当初の様子やその後の変化
前職を退職後すぐにミラトレを利用しはじめたことから、お休みもほぼなく安定して通所ができたTさん。生活リズムの崩れなどもありませんでした。障害受容に関しても、ある程度理解できていた様子です。しかし、理解はしていたものの、自分の障害について説明することは苦手な様子でした。
コミュニケーション面に特に課題を感じていたため、さまざまなコミュニケーション関連の講座を通して、苦手を克服してもらうよう工夫します。また、個々でおこなうトレーニングプログラムよりも、なるべく集合でおこなうコースに参加してもらいました。特に雑談が苦手な様子でしたが、それ以外のコミュニケーションに関しては一通り問題なくこなせるようになりました。支援員との関係性が構築できてからは、ある程度の主体性をもって接することができるようになります。
他の利用者とも、自ら積極的に話しかけることはないものの、グループワークを通して発言したり、話しかけられたらそれに応じたりといったコミュニケーションができるようになった点でも、大きな成長が見られました。
事務職の就労実習を体験し、自分に合わない仕事を認識できた
通所開始から半年程経ち、安定して通所もできていたことから就職活動を開始します。「配慮を受けながらはたらきたい」「人付き合いがストレスになることもある」との理由から、障害者雇用を選択しました。本人が就職活動で重視したポイントは「企業理念」です。「理念に共感できる会社ではたらきたい」との思いから、四季報なども参考にしながら志望企業を選びます。
コミュニケーション課題を克服するために、面接練習には時間をかけました。支援員からのフィードバックをきちんと受け止め修正していくことで、徐々に自分のことについて、自身の言葉で伝えられるようになります。支援員から「志望動機を伝える際には、理由づけしながら自然な流れで話す」とアドバイスされたことも、実践できるようになりました。「自己理解を深め、可視化し覚える」を繰り返し練習することにより、さまざまな質問に対応できるようになっていきます。
Tさんは当初、事務職を希望していたことから、ある企業の就労実習に参加されます。すると、1日に複数のタスクをこなすのが苦手であることが自分でもわかり、事務職は自分に合っていないと判断されました。この実習を通し、やはり経験のあるCADを使用した設計関連の仕事がよいと思えたようで、実習後はCADを使用する仕事に絞って就職活動を進めました。
自身のスキルを活かせる専門職に絞る
CADのスキルを活かせる仕事に絞って就職活動を進めていましたが、最初は専門性が非常に高い企業を選ぶことが多く、何度か不採用通知を受け取ります。支援員は、本人に「どのようにはたらきたいか」を整理するようアドバイスを送りました。
そのような中、ハローワーク主催の面接会で、ある企業に出会います。CADのスキルも活かせる建材業で、勤務場所も通勤の負担が少ない立地にありました。こちらの企業に応募したTさん。見事、内定を得ることができました。ミラトレ利用開始から、1年6カ月が経った頃でした。
自分と向き合い広い視野を持てたことにより、専門職への就職を叶えた
事務職の実習を経験したことにより、細かく仕事を区切るのが苦手であるなど、自分に合わない仕事が明確になった様子で、それ以降は自身のスキルを活かせる企業に絞って就職活動を進めることができました。現在の就職先は、経験したことのある仕事という点が大きなマッチポイントとなっていると感じています。また、自分がやりたい仕事を面接でもアピールし、企業も希望に応じてくれました。
現在のTさんは、いきいきとはたらかれており、充実した生活が送れています。サポートしてくれる先輩社員がおり、欠勤もなく順調にはたらけている様子です。企業側からも「真面目に問題なくはたらけている」とフィードバックいただいています。事務職の実習を経験したことで、自分自身と向き合うことができ、障害者雇用枠では数少ない専門職の仕事に就くことができました。広い視野を持って就職活動を進めることが大切だと感じた事例です。
※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。