基礎知識

公開日:2022/7/25更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

パニック障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

パニック障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

パニック障害の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、パニック障害の基礎知識や仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

パニック障害の基礎知識

パニック障害とは、体の病気がない健康な人が、動悸や呼吸困難、めまいなどの発作を突然起こしてしまう「不安障害」の一種です。ある日突然、呼吸困難などの症状とともに、強い不安と恐怖が襲いかかります。「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖感を抱くのも特徴です。

「不安障害」は、過度に不安が生じることにより心と体にさまざまな不快な変化が起きるもので、社会生活に影響のある状態を指します。慢性的に不安な状態が続く場合や、特定の状況で発作的に不安が生じる場合など、不安障害はいくつかの種類に分類されます。「パニック障害」は、不安を伴う体の異常な反応が発作的に生じる障害です。

パニック障害の主な症状

パニック障害の症状は人によりさまざまです。動悸、発汗、息切れ、胸の痛み、吐き気、めまい、寒気、ほてり、何かが手を這うように感じるなどの異常感覚。自分が自分ではないように感じ、自分をコントロールできない感覚、死んでしまうのではないかという感覚・恐怖などが挙げられます。これらの症状が突発的に起こり、数分以内にピークに達し、多くの場合は数分で静まるのが特徴です。パニック障害の症状をパニック発作と呼びますが、これらのパニック発作を繰り返すと「パニック障害」と診断されます。

また、多くの人は「また発作が起きたらどうしよう」と心配になりがちです。パニック発作を繰り返すうちに、発作を起こしていない時にも、次の発作を恐れるようになります。これらを「予期不安」といい、パニック障害に多く見られる症状の一つです。不安のあまり家から出られない、仕事に行けないなどの社会生活に影響を及ぼすこともあります。

その他、その場で発作が起きたら逃げられないのではないか、助けが得られないのではないかと思える苦手な場所ができ、その場所や状況を避けるようになります。これを「広場恐怖」といいます。広場恐怖を伴わないパニック障害もありますが、多くの場合広場恐怖がみられます。

パニック障害の要因

パニック障害の要因は、まだわからないことが多いようです。強いストレスや幼少期の分離不安などによる親子関係、脳の伝達物質の動きなどが関係しているのではないかといわれています。原因は人によってさまざまな場合が多いため、治療を進める上でも原因を取り除くという発想にはなりにくいようです。不安を感じやすい人がなりやすいともいわれています。

パニック障害の主な治療方法

パニック障害は、数分で症状が静まることから、発作が起きている状態を医師が確認するのは難しいでしょう。まず、身体的な病気がないか確認し、それらを除外した上で診断します。医師は、本人に寄り添いながら話を聞き、本人の気持ちを思い起こせるように話をなぞります。

パニック障害の主な治療方法は、患者教育、精神療法、薬物療法の3つです。患者教育では、自分自身のことを知ってもらいます。パニック障害とはどういうものなのか、自分に起こりうる症状や自身に障害があること、死ぬことはないということなどの認知を促します。薬を服用することへの不安がある場合は、薬による効果と副作用について把握してもらうことで、不安の軽減につなげます。家族や周りの方への理解を促し、身近な人に受け入れてもらうことも大切です。

精神療法では、主に認知行動療法やばく露療法が用いられます。認知行動療法を通して、自分の思考に偏りがあることに気づき、考え方を修正します。ばく露療法は、段階的に不安なものや苦手なものに少しずつ慣れていく方法です。不安を感じやすく、パニックに陥りやすい可能性のある状況に身を置き、少しずつ心と体を慣らしていきます。

薬物療法は、脳に作用する薬を服用する療法です。発作を起こしにくくする薬を継続的に服用する場合や、発作時にその症状を静めるために服用する場合があります。主治医の指導の下、自分に合った薬を選択しましょう。また、薬物療法に加えて、精神療法を併用することも重要です。薬によって発作が起こらなくなってきたら、少しずつ不安や苦手なものに挑戦していきます。

生活するために活用したいサポート

パニック障害の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

職場の産業医や学校の精神科医、スクールカウンセラーに相談できます。勤務先が産業医を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談するとよいでしょう。
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

パニック障害の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

家族や周りの方は、パニック障害であることを否定したり、簡単に「大変だね」と言わないようにしていただきたいです。本人の辛さは、周りの方であろうとも理解できないこともあるでしょう。基本的には、寄り添う姿勢でサポートいただければと考えます。決して本人の辛さやパニック障害の症状を軽んじないでいただきたいです。

しかし、常に本人と一緒にいるのは現実的ではありません。適度な距離感も必要です。適度な距離で見守ってくれていて、自分のことをわかってくれる存在がいることは安心につながります。パニック発作を起こしたときに、薬を飲むよう伝えたり、落ち着くために安心させるスキンシップができる関係性であれば、そのようなコミュニケーションも有効でしょう。そのためにも、家族は受診に同行し、主治医からの説明を受けることも大切です。

パニック障害の方に接する際の注意点や接し方のポイントはありますか?

パニック障害の症状の辛さは、本人にしかわからない点が多いです。実際、話を聞いているだけでは理解できないこともありますが、決して本人の主張を大げさだと軽んじないことです。本人の状況や辛さを十分に聞き取り、本人の話を信じてあげましょう。その上で、発作が出ていないときには通常通り接してあげてください。

仕事選びのポイント

パニック障害の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

パニック障害の方が就職活動で大切にすべきことは何ですか?

パニック障害の方が就職を目指す場合、患者教育や精神療法を通して、発作時のコントロールができるようになっていることが望ましいです。もし、発作時のコントロールが不十分なまま就職し、就労中に発作を起こした場合、本人も企業も戸惑いが大きいでしょう。まずはコントロールが可能になってから就職活動を進めた方がよいと考えます。

発作時のコントロールができている場合、安心して障害を伝えられる環境が望ましいと思います。パニック障害であることを理解してもらい、発作が起きても慌てずに本人の対応を見守ってくれる環境があれば安心です。一時的に休憩することを理解し認めてくれたり、一人になれる場所があり薬を飲んだり落ち着く時間が取れたりすることが、安心してはたらくことにもつながるでしょう。

パニック障害の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

パニック障害は、加齢とともに症状は少しずつ落ち着くことが多いといわれています。
しばらく症状が落ち着いているけれど、季節や天気によって発作が起きやすくなる方や、過重労働や睡眠不足が続くと発作が起こりやすい方などもいます。

本人が安心してはたらけ、心身にストレスがかからない環境がはたらきやすいといえそうです。発作を誘発する原因は一人ひとり違うため一概には言えませんが、疲れからコントロールがしにくくなり、発作を起こすこともあります。発作とどのように付き合っていくか、工夫しながら向き合える環境が望ましいでしょう。自分のペースで仕事ができ、いつ発作が出てもこの環境なら大丈夫と思えれば、予期不安にもつながりにくいといえます。

パニック障害の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

発作が起こったときに離席することが難しい環境や、仕事のスケジュールをコントロールしにくい環境は注意が必要です。そういった環境調整が難しいほど、発作がいつ起こるかわからないパニック障害の方は辛さを感じるでしょう。「この環境で発作を起こしたらどうしよう」「逃げ場がない」などの予期不安にもつながりかねません。

また、車の運転を伴う仕事も注意が必要です。発作を抑える薬を服用していても、安心とは言い切れないところがあります。車を運転できるかどうかは、個人差があるので、必ず主治医に相談しましょう。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。パニック障害の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

パニック障害の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

長期就労を目指すパニック障害の方は、まずはしっかりと通院することが大切です。通院しながら、主治医から体調に応じたアドバイスをもらいましょう。。休職が必要な場合には、復職のタイミングは主治医と十分に相談することが重要です。

職場においては、自分には通院が必要であることをあらかじめ伝えましょう。そして、安心して仕事ができる環境を自ら作る努力もしていただきたいです。自分でも工夫できることを見つけたり、仕事のスケジュールの立て方、避けてほしい業務などを、上司へ相談しておくとよいでしょう。また、発作が起こった際に上司や同僚にはどうしてほしいかも伝えるとよいと思います。救急車は呼ばなくてよいことや、薬を飲んで休憩すれば落ち着くことなどをあらかじめ伝えておけば、双方が安心でき長期就労にもつながるでしょう。

パニック障害の方が、はたらけなくなる状態を避けるためにはどうすればよいでしょう?

予期不安が強くなりすぎて、薬を服用しても不安が改善しにくく、外出もままならないような状態になってしまうことも考えられます。そのような場合は、無理せず休職を選択しましょう。発作の頻度が増えたり、頻繁に勤怠が乱れたりしたら要注意です。迷わず主治医に相談してください。

パニック障害は、基本的には服薬すれば安定すると考えられているため、仕事の能力が落ちることはありません。休職して一度症状を安定させてから、改めて仕事を再開してもよいと考えます。

はたらけなくなる状態を避けるためには、体調に違和感を覚えたら誰かに相談することです。また、不安への対処方法を身につけることも有効でしょう。セルフケアのスキルが身につけられると、不安にどう対処したらよいかがわかってきます。呼吸を整えるリラクゼーション法なども有効でしょう。

そして、頑張りすぎないことも大切です。仕事においてはどこまで頑張ってよいかの判断が難しい場面もありますが、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、職場と一緒に探っていけるとよいと思います。

まとめ

パニック障害の方が就職し、長くはたらくためのさまざまなコツを紹介しました。長くはたらくためには、自己理解や障害受容など、まずは自分を知ることが大切です。一人ではどうしたらよいかわからないときは、精神科や心療内科といった医療機関、就労移行支援事業所などの外部サービスを利用し、サポートを受けるとよいでしょう。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。