基礎知識

公開日:2022/9/21更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

社交不安障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

社交不安障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

社交不安障害の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、社交不安障害の基礎知識や仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

社交不安障害の基礎知識

社交不安障害は、他者と同席する場面で緊張したり、自分がいることで相手に迷惑をかけてしまわないか考えたりと強い不安を感じてしまう障害です。「social anxiety disorder」の頭文字を取って「SAD」という略称で呼ばれることもあります。

どのような人でも人とコミュニケーションを取る際に緊張や不安を感じることはあるため、あがり症など性格の問題とされてしまうこともありますが、社交不安障害はその緊張や不安のレベルが過度で苦痛や恐怖を感じる程度であることが特徴です。その結果、周囲の人が理解できないほどの症状が出てしまい、社会生活に影響を及ぼす場合もあります。

1人でいる時に症状が出ることはほぼなく、対人関係で不安が強くなる傾向にあります。他者と同席する場合や、これから他者がいる場に出かける場合などに、自分と相手の関係に対して大きな不安を感じてしまう障害です。

社交不安障害の主な症状

社交不安障害の主な症状には、赤面や発汗、動悸、緊張、不眠、めまい、息苦しさなどがあります。吐き気をもよおしたり、腹痛から頻回に便意を催す方もいます。自分がその場にいることや、何か行動を起こすことで、他者から否定的な目で見られないかと不安になってしまうケースが一般的です。

例えば、人前で発表する場面で緊張から赤面や発汗した際、「気分が悪くなってきた」「私は大量に汗をかいている」と不安な気持ちが生まれます。そして、「みんなが私の赤くなった顔を見て笑っている」「汗の臭いがみんなを不快な気持ちにさせている」などと不安が大きくなり、その場にいられないほどの恐怖を感じてしまうことがあるのです。他には、自分の容姿が醜いと思い込む醜形恐怖で、過剰に外見に気を遣ったり、整形手術を繰り返したりする例も挙げられます。

社交不安障害の方は、不安な気持ちを紛らわせるためにアルコールや薬物などに依存したり、うつ病や双極性障害、不安障害などさまざまな精神障害を併発したりすることもあります。

社交不安障害の要因

社交不安障害を発症する要因は、まだ明らかではありません。発症しやすい傾向として、人に気を遣いすぎる方や、元々あがり症などの気質のある方が挙げられます。不安な気持ちにうまく対応できない要因や環境が合わさると症状が出るようです。

また、思春期の複雑な心理状態も相まって、10代~20代の若い方が発症しやすいとされ、ある程度の年齢を重ねてから発症するケースは少ないといわれています。

社交不安障害の主な治療方法

社交不安障害の治療で大切なことは、治療可能な病気であることを本人が理解することから始まります。自分の心や体に起こっている変化や症状に気付き、信頼できるかかりつけ医を見つけましょう。治療を継続していくにつれて、不安との付き合い方やコントロールの仕方が身についていく流れです。

主な治療方法としては、薬物療法と認知行動療法があります。
薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用いて脳内のホルモンバランスを整え、症状を安定させていきます。不安が強くなりそうな場に行く前に服用するとよいでしょう。

対人関係に関して根拠のないことを妄想的に考えたり、些細なことで落ち込んでしまったり、いつも悪い方向に考えてしまうなど、考え方のパターンが極端に偏っている状態が続く認知の歪みが極端に出ている場合は、認知行動療法が用いられます。実際に起こっている問題を具体化し、考え方や行動の中から少しずつ変えていくことで問題解決を目指す心理療法です。

社交不安障害の生活する上での困りごと

社交不安障害の方は、暮らしの中でさまざまな困りごとを抱えています。他者に対して不安や緊張を過度に感じてしまうため、コミュニケーションがうまくとれず、友人ができにくいといった悩みもよく聞かれます。

目線を合わせたり注目を浴びたりすることも苦手なため、面接が受けられず就職できないといった困りごとも多いです。他者と長時間会話をすることが難しいため、グループワークやディスカッションの場も苦手で、そのような場面ではどうしたらよいかわからなくなってしまうようです。

生活するために活用したいサポート

社交不安障害の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

産業医や保健師などの職場の産業保健職、学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。勤務先が産業保健職を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談すると良いでしょう。
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

社交不安障害の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

社交不安障害の症状を理解することがサポートにつながります。本人以外には理解しにくい症状が出ていたとしても、肯定的な態度で接してあげてください。社交不安障害の方は、不安な気持ちが強くなることを自分では抑えられません。大げさに見えてしまうかもしれませんが、そう感じざるを得ない本人には相当なつらさがあるでしょう。必要に応じて精神科への受診を促すことも大切なサポートです。

社交不安障害の方に接する際の注意点や接し方のポイントはありますか?

社交不安障害の方と接する際は、本人の話をありのままに聞くことがポイントです。否定的な言葉や態度は避け、「それほど強い不安を感じているんだ」と受け入れてあげましょう。通院につなげることは大切ですが、強引にしないよう注意してください。

また、家族から見て社会生活や日常生活が大きく制限されているように感じる場合は、言葉にして伝えても良いでしょう。「あなたが大変な状況にあるのはわかるし、困っているのもわかる。できれば一般的な日常生活を送ってほしいと思っている」といった言い方であれば、心配している気持ちも伝わりやすいのではないでしょうか。

仕事選びのポイント

社交不安障害の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

社交不安障害の方が就職活動で大切にすべきことは何ですか?

社交不安障害の方が就職活動を始める場合、まずは自分の障害を理解することが大切です。面接時や就職後に不安が強くなった時、対処法がわからなかったり、相手に自分の状況を伝えるための言葉が出にくかったりすると、はたらくことは難しいかもしれません。そして、自分がどのような時に不安が強くなるか把握した上で、はたらきやすい職場の条件を知っておくことも必要です。

社交不安障害の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

社交不安障害の方は対人関係に強い不安を感じるため、在宅勤務可能な職場がはたらきやすさにつながります。他には、テレフォンオペレーターなど、相手と直接対面せずにはたらける環境も合っているのではないでしょうか。

同じ相手と長期的にはたらける環境が望ましいため、小規模な企業は大企業と比べて関わる人数が少なく、社交不安障害の方にとってはたらきやすい環境といえるでしょう。自分にとってどのような環境が向いているかわからない場合は、避けたい環境から絞り込む方法もあります。

社交不安障害の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

毎回違う人と接したり、多くの方から見られる仕事は注意が必要になってきます。たくさんの人の前で何かを行うなど、自分1人対大勢といった状況は不安が大きくなりやすいからです。

例として、フライトアテンダントは毎回違うたくさんの乗客に対応する仕事です。大勢の乗客の前で案内する際、注目を浴びて緊張や不安が強くなるかもしれません。他には、乗客と直接顔を合わせることが少ないながらも、バスの運転手などは注意が必要です。運賃を支払う時に「乗客から見られているのではないか」「乗客の咳払いが自分に向けたものだったのではないか」など、不安が生じる可能性があります。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。社交不安障害の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

社交不安障害の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

社交不安障害の治療を継続し、孤立しないことが大切です。自分の障害を理解してくれる家族やパートナーがいることは大きな支えとなるでしょう。

症状が出た際、自分で対処するために企業側の理解を得ることも重要です。そのためには、症状が出やすい状況や対処法、配慮してほしいことを自分の言葉で伝える必要があります。対処法や工夫はさまざまあるので、いざという時に自分である程度コントロールできることを伝えておくと、企業側も安心でしょう。

社交不安障害の方が長くはたらくために、家族や職場の方にはどのようなサポートを求めるとよいでしょう?

家族には支持的に接してもらいたいです。自分の話や症状を受け入れてもらうこと、話を聞いてもらうこと、共感してもらうことが大きなサポートになるでしょう。

職場には、不安が出にくい環境ではたらかせてもらえるよう相談できると良いですね。接客の場合、直接接客をしないバックオフィスでの業務なら対応ができるかもしれませんが、オーダーを取りに行く、商品説明やクレーム対応などお客さんと直接接する仕事は避けた方が良いかもしれません。営業職の場合は2人1組のチームが組めると良いと思います。

万が一、不安症状が出て自分が離席したとしてもパートナーが仕事を進められます。定期的にコミュニケーションをとる機会を作ってもらえ、その時々の自分の状態に合わせて安定してはたらきやすいポイントを伝えられる環境が望ましいです。

まとめ

社交不安障害の主な症状や仕事選びのポイント、仕事を続けるコツなどを紹介しました。長くはたらくためには、自分が障害を理解し、受容すること、信頼できる主治医のもと治療をおこなうことが重要です。社交不安障害は年齢を重ねるごとに症状が落ち着いていく傾向がありますが、自己判断で治療を中断せずに継続しましょう。

家族や職場、医療機関など複数の相談先をつくっておくことで、はたらきやすさや長期就労につながると考えられます。どのようにしたら良いか迷った時は、1人で考えずに紹介したサポートセンターへ相談し、適切な支援を受けられると良いですね。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。