基礎知識

公開日:2022/10/21更新日:2023/3/30
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就職ガイド –はたらく選択肢-

パーソナリティ障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

パーソナリティ障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

パーソナリティ障害の方が、就職し長くはたらき続けるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。産業医科大学教授江口尚先生の解説のもと、パーソナリティ障害の基礎知識や、仕事選びのポイント、長くはたらき続けるためのコツを紹介します。

パーソナリティ障害の基礎知識

パーソナリティ障害は、個人のパーソナリティ(行動、思考、感情の習慣的なパターン等)の特性に大きな偏りがあるために融通がきかず、不適応が生じるために、仕事や学業、人付き合いに問題が生じてしまう障害です。ものの捉え方や考え方といった認知、感情のコントロール、対人関係といった精神、認知機能の偏りから生じるもので、「性格が悪いこと」を意味するものではありません。これらの社会的不適応は、パーソナリティ障害を抱える本人や、周囲の人に大きな苦痛をもたらすことがあります。

アメリカ精神医学会が出版している「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」によれば、10種類のパーソナリティ障害が存在し、それらはA群、B群、C群の3グループに分類することができます。

パーソナリティ障害の特徴

パーソナリティ障害の人は、考え方の偏りが大きいという特徴があります。ものの考え方に偏りがあったり、柔軟性がなく別の考え方を容易に受け入れられなかったりします。また、3つのグループによっても、それぞれ異なる特徴が見られます。

【A群】
奇妙または風変わりな様子が特徴で、妄想性、シゾイド、統合失調型がこれに当たります。その場にふさわしくないような服装をしたり、あまりにも他者に対して無関心だったりと、その人のファッションや行動、態度、リアクションを客観的に見て「少し変わっている」と感じるのが特徴です。個性的とも言えますが、どこまでが個性でどこから障害とするかは、本人や周りの人の困り感によるところがあります。

【B群】
演技的、感情的、または移り気な様子を特徴としています。反社会性、境界性、演技性、自己愛性がこれに分類されます。一言で言うと、感情の起伏が激しく不安定なタイプです。気持ちが不安定で行動も劇的なため、周囲の人が巻き込まれやすいという特徴もあります。

【C群】
不安や恐れを抱いている様子を特徴とし、回避性、依存性、強迫性がこれに当たります。基本的には常に不安で、不安から不安定な状態になります。不安を避ける行動を取ったり、他者に依存したりするのも、このグループの特徴です。

パーソナリティ障害の主な症状

パーソナリティ障害は、主な症状が内面的に出るのが特徴です。例えば、自分自身のアイデンティティが安定しないことが挙げられます。自分のことをどのように捉えるかが、周囲の状況や一緒にいる人によって変化するのです。また、自分の価値観が場所や状況により頻繁に変わる人もいます。

他者と親密で安定した人間関係を築くことができない人も多いです。急に気分が変わったり、怒り出したりすることもあります。他者の気持ちに鈍感であったり、感情的に無関心であったり、共感性を欠いていたりすることがあるため、親密な関係性を築けないのです。

これらの症状を伴うパーソナリティ障害の人は、生きづらさを強く感じてしまい、うつ病、社交不安障害、薬物やアルコール依存症、摂食障害などを併発することもあります。

パーソナリティ障害の要因

パーソナリティ障害の要因としては、遺伝的なものと環境的なものの両方が挙げられます。親がパーソナリティ障害であると、子もそういった傾向があることがわかっています。
また、環境的な要因としては、虐待などの不適切な養育環境があります。否定され続けながら育てられた子も、内面性が安定せず、誰かに依存したり、他人の評価が気になったりし、パーソナリティ障害に影響を及ぼすと考えられています。

パーソナリティ障害の主な治療方法

パーソナリティ障害の主な治療方法としては、まず薬物療法が挙げられます。他に、苦痛を緩和したり、社会的に好ましくないことを減らしていくことを目的として、カウンセリングなどの心理療法が用いられることも多いです。パーソナリティ障害の人は、自分の行動に問題があると思っていない場合があるため、問題の原因が他者や周りの状況ではなく、自分自身にあることを理解できるように支援することも重要です。

生活するために活用したいサポート

パーソナリティ障害の方の生活を支えるためには、さまざまなサポートがあります。これらを上手に活用し、生活基盤を整えましょう。

産業医や保健師などの職場の産業保健職、学校の精神科医、スクールカウンセラーなどにも相談できます。勤務先が産業保健職を選任していない場合は、都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談すると良いでしょう。
  • 医療費のサポート
    ・自立支援医療
    精神科の治療のため、定期的・継続的に通院している場合、かかった医療費を補助してもらえる制度です
  • 暮らしと社会生活のサポート
    ・精神障害者保健福祉手帳
    税金の優遇制度や交通機関の割引、公営住宅への優先入居など経済的・福祉的なサービスを利用することができます
  • 就労のサポート
    ・就労移行支援事業所
    ・ハローワーク
    ・地域障害者職業センター
    ・障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
  • さまざまな相談ごとのサポート
    ・保健所
     └都道府県別の保健所一覧
    ・精神保健福祉センター
     └全国精神保健福祉センター一覧
    ・病院の患者会や家族会
     └みんなねっと

周りの人が理解するべきこと

パーソナリティ障害の方を支える家族や周りの人は、どのように本人に接するとよいのでしょうか。家族ができるサポートや職場の方に理解してほしいことについて、産業医科大学教授 江口尚先生に解説いただきます。
産業医科大学 産業生態科学研究所  産業精神保健学研究室 教授 江口 尚氏

【監修者】
産業医科大学 産業生態科学研究所
産業精神保健学研究室 教授
江口 尚氏

【専門分野】
職場の心理社会的要因、治療と仕事の両立支援、障害者や中小企業の産業保健
 

家族や周りの人ができるサポートについて教えてください

基本的には寄り添いすぎないことが大切です。パーソナリティ障害の方は、人が自分に寄り添う、自分の味方になるように自然と行動するため、寄り添いすぎると周りの人が振り回される可能性があります。

支援する家族や周りの人は、主治医や専門家と相談の上、「ここまでは支援する、家族として支える」と線引きすることが重要です。また、一人で支援するのではなく、複数人で支援することも大切だと考えます。振り回されている人も、自分では気づけない場合もあります。複数人で対応することにより、対応する人同士で「今振り回されているよ」「少し距離を取った方がいいよ」と伝え合うことができるでしょう。

そして、パーソナリティ障害は今日明日すぐに改善するものではありません。根気強く、諦めずに関わっていく姿勢が大切です。すぐに結果を求めるのではなく、長い目で支援する心積もりを持ちましょう。

パーソナリティ障害の方に接する際の注意点や接し方のポイントはありますか?

パーソナリティ障害は、接し方が難しいと言われています。3つのグループによっても、接し方の注意点が異なりますので、それぞれ説明します。

まず、A群の方に対しては、否定せず尊重するように接しましょう。できれば本人が安心して生活できるような環境を作ってあげてほしいです。次にB群の方に対しては、境界線をはっきりと決めて接するようにしましょう。あらかじめ決めておいた境界線を越えるようなことがあれば、きちんと断ることが大切です。最後にC群の方は、思い込みが強い傾向があるので、認めながら接するとよいでしょう。

パーソナリティ障害の方の就職に向けて、周りの人はどのようにサポートしたらよいですか?

もし、本人がパーソナリティ障害であることをきちんと認識していない場合は、医療機関の受診を促し自分の障害と向き合うようサポートすることから始めるべきだと考えます。本人が障害を認識しないままでは、就職しても長くはたらき続けることが困難なケースが多いからです。

A群とC群の方は、周りの理解が得られれば、就労継続支援A型事業所などでサポートを受けながら、段階を踏んではたらくことができるでしょう。B群の方は、障害が見えにくいため、一般雇用枠で入社後に職場が混乱するケースがあります。自分の障害や特性を理解している場合は、自分でコントロールができるため受け入れられますが、障害を認識できていない場合には、トラブルになる懸念があります。家族は職場にすべて任せるスタンスではなく、諦めずにサポートしていただきたいと考えます。

トラブルを記録しておき、あらかじめ引き際について本人と話し合っておくこともよいでしょう。あまりに仕事が安定しない、人間関係のトラブルが絶えないといった場合には、改めて医療機関に相談することも大切です。

仕事選びのポイント

パーソナリティ障害の方が就職する際、仕事を選ぶときのポイントはあるのでしょうか。就職活動をする上で大切にすべきことなど、江口先生に解説いただきます。

パーソナリティ障害の方が就職活動をする上で大切にすべきことは何ですか?

まずは障害を自分でコントロールできる、主治医から就労できると言われている段階になってから、就職活動を始めましょう。その上で、自分の能力に応じて、自分の意向に沿う仕事ができると安定につながると考えます。「こういうことができる」「これは苦手」と、自分のできることや不得意なことを自分の言葉で職場に伝えられることが、就職活動をする上では大切です。

パーソナリティ障害の方が比較的はたらきやすいのはどのような環境ですか?

先入観にとらわれることなく、現在の自分の姿を見てくれる職場であれば、比較的はたらきやすいでしょう。もちろん、本人がしっかりと障害を受容できていることや、通院し治療を受け続けていること、頼りになる医療機関があり支援者がいることなどが前提としてあります。

産業保健職などの専門家がいる職場やジョブコーチが常駐している職場であれば、パーソナリティ障害の方のはたらきやすい環境にさらに近づくでしょう。

パーソナリティ障害の方にとって注意が必要な仕事はありますか?

本人の裁量でどんどん仕事を進めることを容認する職場は、注意が必要です。本人に任せっきりにしてしまうと、思わぬトラブルを招きかねません。チェック体制がある職場の方が安心でしょう。また、人によって指示の仕方が違うなど、同一の対応ができていない職場環境も注意が必要です。特にB群の方は、自分にとって都合のよい方を選択し、頼ったり依存したりすることもあります。

A群の方は、変化が大きかったり、臨機応変な対応を求められたりする環境に注意しましょう。自分の特性とかけ離れた職種も、長くはたらき続けることが困難なケースが多いので注意が必要です。

はたらき方の形、仕事を続けるコツなどを解説

就職自体がゴールではありません。本当に重要なのは、就職後に長くはたらき続けることです。パーソナリティ障害の方が仕事を続けるコツについて、江口先生に解説いただきます。

パーソナリティ障害の方が、長くはたらき続けるためのコツはありますか?

長くはたらき続けるためには、自分の特性に気づき、理解できていることが大前提となります。その上で、医療機関への通院を継続していて、信頼できる支援者がいると長くはたらき続けることにつながりやすいと考えます。

また、パーソナリティ障害には様々な特性があるため一概に言えませんが、職場で受け入れることができるような特性であれば、あらかじめ職場には自分の特性をきちんと伝えておきましょう。

例えば「無表情なことが多くてあまり活発に返答しませんが、話を聞いていないわけではないので誤解しないでほしい」「定期的にミーティングの場を作ってもらいたい」など、特性に合わせた要望も伝えられると長くはたらきやすいと思います。職場とコミュニケーションをとる機会を、意識的かつ定期的に作ってもらえれば、お互いに安心して長くはたらきやすいでしょう。
なんでも障害のせいにしなくてよいように、冷静なミーティングの機会を作れるとよいと考えます。

パーソナリティ障害の方が長くはたらくために、家族や職場の方にはどのようなサポートを求めるとよいでしょう?

身近な家族の方には、諦めない、見放さないでサポートしてもらうよう求めるとよいでしょう。主治医と家族が連携できているとより安心です。しかし、家族に対しては精神的に追い込まれてしまうことのないよう、ある程度の距離感をもってサポートしてもらうよう伝えられるとよりよいと考えます。

職場の方には、まずは社内の産業保健職、場合によっては社外の精神科医、心理カウンセラーなどの専門家とも連携をとりながら関わってもらうようお願いできるとよいでしょう。職場の方たちが辛くなりすぎないように、あらかじめラインを決めておくことも大切です。関わってもらう限界のラインを決めた上で、サポートしてもらうよう伝えましょう。

まとめ

パーソナリティ障害の主な特性や仕事選びのポイント、仕事を続けるコツなどを紹介しました。長くはたらくためには、自分が障害を理解し、受容すること、信頼できる主治医のもと治療をおこなうことが重要です。

パーソナリティ障害は年齢を重ねるごとに症状が落ち着いていく傾向がありますが、自己判断で治療を中断せずに継続しましょう。家族や職場、医療機関など複数の相談先を作っておくことで、はたらきやすさや長期就労につながると考えられます。

どのようにしたらよいか迷った時は、1人で考えずに紹介したサポートセンターへ相談し、適切な支援を受けられるとよいですね。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。