障害を抱えながらはたらくことに、難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。1人で自分の適性に合った就職先を探したり、就職後の悩みと付き合ったりするのは大変かもしれません。パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用し、一般企業への就職を叶えた卒業生は多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、ADHD(注意欠如・多動症)・ASD(自閉スペクトラム症)・社交不安障害の20代女性の就職事例です。就職意欲が湧かなかったFさんが、就労移行支援を活用して徐々にはたらくイメージを形づくり、就職するまでのストーリーを紹介します。
障害の診断が一つの安心材料に
Fさんは、子どもの頃から集団行動にとけこめなかったり、授業を最後まで受けられなかったりと、学校生活で課題を抱えていました。高校生になってもその傾向が続いたため、家族の勧めで医療機関を受診しましたが、はっきりとした診断がないまま大学生になります。
その後、授業を受ける様子を心配した教授から、医療機関の再受診を勧められたそうです。医療機関で診断を受けたところ、ADHD(注意欠如・多動症)・ASD(自閉スペクトラム症)・社交不安障害という3つの障害が見つかり、障害手帳を取得されました。集団行動や勉強など学校生活がうまくいかないのは自分の努力不足ではなく、障害の特性によるものだとわかり、ご本人は長年の胸のつかえが下りたそうです。
大学卒業後は社会との関わりを避けて生活していましたが、次第に焦りや不安を感じ、就労に向けたサポートの必要性を感じていました。そんな時、大学時代にワークショップで出会った就労移行支援事業所「ミラトレ」のことを思い出したといいます。「社会からはみ出していたくない」という一心で、ミラトレへの通所を決意されました。
自分の特性が障害由来であると知り、ミラトレの扉を叩く
「社会の一員として何かしなくては」とミラトレへの通所をスタートしたFさんですが、自分の将来像を思い描けずにいる様子でした。支援員からの「焦らずにいこう」という励ましとともに、ミラトレでトレーニングをスタートしました。
【課題1】スマホを手放せない
通所前から長時間スマホで動画などを視聴する習慣がついていたため、夜更かしなど生活の乱れがありました。ミラトレにいる時はスマホで動画を視聴しないルールを設け、「直したいけれども直せない」というご本人の気持ちに寄り添いながら、徐々にスマホを手放せるよう声を掛けます。
【課題2】就職に対する意欲がない
トレーニングをするにあたって、就労に向けた意欲が湧いてこないという課題もありました。ご本人が自ら行動したいと思える時期を待ちたい一方で、就労移行支援には2年間という期間上限が設けられています。「2年間かけて自分の気持ちと向き合っていこう」「目の前のことをコツコツ取り組んでいたら、何か見えてくるかもしれないよ」と声を掛けると、トレーニングや擬似就労で最後まであきらめずに取り組む姿勢を見せてくれるようになりました。
【課題3】スケジュール管理が苦手
スケジュール管理が苦手だったため、予定通り行動できるよう、リストバンドメモやアラームの活用も提案しています。手首に巻きつけるリストバンドメモを使うと、スケジュールの確認や予定変更がスムーズにおこなえるようになりました。また、すぐに見たくなってしまうスマホを有効活用し、時間の切り替え時にアラームを鳴らして時間管理をおこなうと、何かに集中していても次の予定に向けて気持ちを切り替えられるようになりました。
就職に向けて、一歩一歩の歩みを着実に
通所開始から約1年後、自分の持っている障害特性を知り、どのような対応があればはたらけるか理解が深まったタイミングで就職活動をスタート。マルチタスクが苦手という特性を踏まえ、同時に複数の企業へ応募せずに、一社ずつ丁寧に進めることにしました。
実習を通じてはたらき方をイメージ
就労経験がないFさんに、はたらくイメージを持ってもらえるよう、雇用を前提としない実習に参加してもらいました。実習先で手際良く仕事に取り組む方の姿に感心し、自分も社会人になるのだという心構えや、自分の特性に合った職種や職場をイメージできたようです。実習を無遅刻・無欠勤で終えたことが大きな自信につながり、その心の変化は書類作成や服装、立ち居振る舞いに現れます。
3つのポイントを心がけた面接練習
人とのコミュニケーションも苦手分野のひとつだったので、ミニ面接会などに積極的に参加して経験を積むことにしました。面接で言葉に詰まったり、表情が硬くなったりすることがあったため、「3つのやるべきこと」をレクチャーしました。
1つ目は「何か発言する」。考えがまとまらない時も黙り込むのではなく、「考える時間をください」「うまく言葉が出てきません」など、自分の思いや状況を伝えるようアドバイスしました。
2つ目は「相手の目を見て話す」。表情や言葉で伝えられない場面でも、伝えたい気持ちを行動で示すことは大切です。たとえ笑顔になれなくても、アイコンタクトを忘れないよう伝えました。
3つ目は「相手に聞こえるように話す」。発言する内容に自信がない時でも、相手に届く声量で話せるようトレーニングしました。
この3つのポイントを心がけて練習に取り組んでもらった結果、言葉や表現で自分の考えを伝えられるようになっていきます。面接練習をくり返しおこなうことで、質問と受け答えの言葉に気持ちが乗り、双方向でコミュニケーションを交わす面接になりました。
就労の意思が固まるまでねばり強くサポート
プライベートな環境面から、就職活動中に感情をコントロールすることが難しい時期もありました。お母さまやご本人と面談をおこない、心の中で起こっている状態や、言葉に出せなかった気持ちを話してもらい、改めてどうしていきたいか考えてもらいました。
支援員が「〇〇と考えているならこうした方が良いよ」と道筋を作ることもできますが、どのような道を進んでも困難はあります。ミラトレ卒業後に自分の力で課題と向き合う力をつけてもらうためにも、「いつでも支えになる」という姿勢を見せたうえでご本人に考えてもらい、決断してもらうことが大切だと思っています。その後は質問や相談を投げかけてくれるようになり、少しずつ就労に向けた心の準備を整えていきました。
想いを共有することで社会への道がひらけた
通所当初は就労意欲が湧かなかったFさんでしたが、就労移行支援が終了する頃には就職に対する希望を語ってくれるまでになりました。「得意のタイピングを活かしたい」「静かな環境ではたらきたい」という言葉を受け、一緒に希望に合う企業を直接探した結果、通所から約2年後に医療系の企業から内定をいただきます。
就職後も時々体調の波に悩まされることはありますが、ミラトレでは定着支援もおこなっています。毎日のメール報告や月1回の面談で、気持ちを溜め込まず言葉にしてもらうようにしています。「考えを表に出せたからこそ、社会に出るための道がひらけた」と話してくれました。今後は、実家からグループホームへの移住も検討し、自立した生活を目指しているそうです。
※プライバシー保護のため、事実をもとに文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。