ASD(自閉スペクトラム症)を抱えながらはたらくことに、難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。1人で自分の適性に合ったはたらき方を見つけたり、就職後の悩みと付き合ったりするのは大変かもしれません。パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用し、一般企業への就職を叶えた卒業生は多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、ASD(自閉スペクトラム症)の20代男性の就職事例です。コミュニケーションや感情のコントロール面で課題のあったさんが、就労移行支援を活用して就職するまでのストーリーと現在の様子を紹介します。
1人で進める就職活動に不安を感じ、就労移行支援の扉を叩く
幼少期に言葉の遅れがあり、知的障害と診断されたMさんは、中学生時代に周囲とのコミュニケーション面に課題を感じるようになりました。病院を受診したところ、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されました。
その後、大学に進学して就職活動の時期を迎えますが、障害をオープンにせず1人で就職先を探すことはむずかしかったそうです。ハローワークからミラトレのパンフレットを受け取ったことがきっかけで、就労移行支援の存在を知ることとなりました。ご本人が課題だと感じた面接する上でのサポートをしてほしいという希望もあり、大学在学中にミラトレへの通所をスタートしました。
ミラトレに通所することで見えてきた課題に取り組む
大学とミラトレを両立するため、最初は週に3日から通所を開始。ミラトレで支援員と面談をしたりトレーニングをするなかで、就職する上での課題が見えてきました。
【課題1】スケジュール管理
最初に見えてきたのは、スケジュール面の課題でした。ミラトレに通所する日、急に大学の予定が入った際、連絡をしないで欠席してしまったのです。「予定が変更になったときは連絡しましょう」と声掛けし、一緒にスケジュール管理に取り組みました。
紙製のカレンダーを作り、予定が決まるたびに書き込んで支援員にも共有してもらいます。そして、予定が変更になった時は書き直して再び共有してもらうようにすると、少しずつスケジュール管理や報告ができるようになっていきました。
【課題2】コミュニケーション
ASD(自閉スペクトラム症)と診断されるきっかけにもなったコミュニケーション面の課題もありました。Mさんは、「自分はコミュニケーションをとることが苦手なので、積極的に取り組まなくてはいけない」と考えて行動していましたが、どうしても苦手な分野のため、気持ちが不安定になってしまうことがありました。
仕事をする上で必要なのは、コミュニケーションに立ち向かうことではないと、ミラトレでは考えています。苦手なことを受け容れ、どのようにすると安定した気持ちで対応できるかが大切だと伝えると、無理をして必要以上のコミュニケーションをとることをやめる選択ができたようです。
【課題3】感情のコントロール
グループワークや休憩中にワイワイと交流する機会があるミラトレの環境は、賑やかな環境が苦手なMさんにとって大きなストレスがかかる場所でもありました。心の負担が大きくなると物にあたってしまったり、急に帰ってしまったりすることがあったので、これから就職活動を始めて他者とはたらくためにも感情をコントロールできるように取り組みました。
ご本人が得意な表計算ソフトで作った体調管理シートに、毎日の体調を記録していくと、1日の中でも自分の感情に波があることが目に見えてわかりました。記録を続けていくと、その時々で自分の状態はどのくらいのレベルなのかわかるようになったため、レッドカードとイエローカードを提示する形で、感情が爆発する前に支援員へサインを出してくれるようになりました。
自分を知ることこそが、就職活動の鍵だった
ミラトレでのトレーニングを約6カ月重ね、大学の卒業論文を提出したタイミングから、通所日数を週5日に増やして就職活動をスタート。就職活動では、ミラトレ見学当初にサポートしてほしいと希望のあった面接練習を中心に、ご本人の体調やペースを大切にしながら取り組みました。
焦りと不安、感情的になってしまった面接練習
面接の練習では、面接担当役の支援員と目線が合わないことや、声が小さく聞き取りにくいという課題から始まりました。トレーニングで感情のコントロールを身につけてきたものの、理想と現実に焦りを感じて不安が大きくなったのか、他の利用者の方にあたってしまったり、欠席したりする時期もありました。
支援員からは「欠席する選択をしてもいいので、感情をコントロールしていきましょう」と声掛けしました。ここまで取り組んできた感情的にならないための対応や発信を心がけることで、気持ちの安定につながっていきました。
面接の練習では、面接担当役の支援員と目線が合わないことや、声が小さく聞き取りにくいという課題から始まりました。トレーニングで感情のコントロールを身につけてきたものの、理想と現実に焦りを感じて不安が大きくなったのか、他の利用者の方にあたってしまったり、欠席したりする時期もありました。
支援員からは「欠席する選択をしてもいいので、感情をコントロールしていきましょう」と声掛けしました。ここまで取り組んできた感情的にならないための対応や発信を心がけることで、気持ちの安定につながっていきました。
企業実習ではたらく現場を体験し、モチベーションがアップ
書類作成や面接練習と並行して、企業の説明会や見学、実習にも積極的に足を運んでいただきました。事務作業を体験する実習を3日間おこなったとき、持ち前の集中力とPCスキルを活かして取り組めました。
企業のご担当者からは、予定とは違うことが起こった際に質問や確認ができていた点をほめていただけました。ご本人は報告・連絡・相談は苦手と感じていましたが、自分が課題だと感じていた部分で評価してもらえたことが自信につながったようです。
自分にとってはたらきやすい環境とは何かに向き合う
就職活動を進めるにつれ、自分がはたらくイメージが見えてきたのではないかと思います。就職先を探す際、何を重視するかは一人ひとり異なりますが、Mさんにとってはたらきやすい場所は、感情的になってしまうきっかけが起こりにくい環境であることでした。周囲の音や声が苦手なため、休憩中は外出できるかや1人で過ごせる場所があるか、仕事中にイヤーマフをつけられるかなど、感情をコントロールしやすい環境の企業に絞り込んで求人を探しました。
希望に沿った就職先が見つかり、意欲的に取り組む日々
ミラトレへの通所開始から1年7カ月後、面接時にコミュニケーションが苦手であることを伝えた際に、「そういう人もいますよね」と受け容れていただけた人材派遣の企業に就職が決まりました。コミュニケーションをとる頻度が少ないデータ入力の業務で、仕事中にイヤーマフをつけたり休憩中に1人になれたりと、ご本人にとってはたらきやすい環境が実現。手持無沙汰であることが不安につながってしまう一面もあるため、上司の方と相談しながら適切な量の業務を担当しているそうです。
ミラトレに通所していた頃を振り返り、「ミラトレに通所することで自分の考え方のクセや完璧思考であることに気付けた」「どういうときに気持ちがしんどくなるのか向き合えた」「ミラトレにお礼を伝えたい」という感想をいただきました。はたらきやすいと思える企業とマッチングできたのは、ご本人の諦めない気持ちと行動力があったからこそ。時に悩みながらも素直に話しを聞き入れて、常に前向きに就職活動に取り組んでいた様子を今も覚えています。
就職から6カ月ほど経過した現在も、仕事に対して意欲的な姿勢は変わっていません。「自分がイヤーマフをしていたら、新しく入社した方が話しかけにくいのではないか」と、他者への気配りをしながら、Mさんは自分にできることと向き合って仕事を続けています。
※プライバシー保護のため、事実をもとに文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。