就職事例

公開日:2024/1/31
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内面を見つめなおし、企業にありのままの自分をアピールできた

事務/金融業
広汎性発達障害の20代男性Nさんの就職事例

広汎性発達障害の20代男性Nさんの就職事例

20代/男性性/広汎性発達障害

広汎性発達障害と向き合いながらはたらくことに、難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。1人で自分の適性に合ったはたらき方を見つけたり、就職後の悩みと付き合ったりするのは大変かもしれません。パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用し、一般企業への就職を叶えた卒業生は多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、広汎性発達障害の20代男性の就職事例です。コミュニケーションや集中力に課題のあったNさんが、就労移行支援を活用して就職するまでのストーリーと現在の様子を紹介します。

人間関係の悩みで退職後、コミュニケーション向上を目標に掲げる

大学卒業後、派遣会社でシステムエンジニアとしてはたらき始めたNさんは、派遣先での人間関係や日進月歩の業界に戸惑いを感じていました。自分のペースで仕事を進められない環境もストレスとなって、次第に体調を崩してしまいます。医療機関を受診したところ、広汎性発達障害と診断されました。

退職後、一年間の休養を経て再就職しましたが、その会社でも上司との間に溝を感じていました。そして、「職場の人間関係がうまくいかないのは、自分のコミュニケーション能力に課題があるのでは」と考えるように。長くはたらき続けるためにはコミュニケーション能力の向上が不可欠だと考え、課題克服に向けて就労移行支援の活用を検討したそうです。障害者就業・生活支援センターで「ミラトレ」を紹介され、施設見学と体験利用に参加しました。「スタッフの人柄がやさしく、コミュニケーションを図りやすい。擬似就労などのプログラムを通じて課題を解決できそうだ」と通所を決意されます。

トレーニングを通じて見つかった課題と向き合う

ご本人から「システムエンジニアとは別の道に進みたいが、どのような仕事が自分にあっているのかわからない」と相談を受け、プログラムを通じて特性を探ることにしました。週3日から通所をスタートすると、さまざまな課題が見えてきます。

【課題1】自ら相談できない

コミュニケーションにおける一番の課題は、自分から相談や発信ができない点でした。まずはコミュニケーションの土台づくりとして、支援員から積極的に声をかけて発言する習慣を身につけてもらいました。

次に、プログラムの中に必ず相談しなければならない場面を設定し、発信ができる機会を作っていきました。相談ができなかったときは、「相談が難しかった原因を一緒に考えていきましょう」と振り返りをおこないました。初めは「スタッフがいそがしそうだったから」と自己弁護する姿勢も見られましたが、信頼関係が深まるにつれて「前職の経験から、相談したときに反感を買ったらどうしようと考えてしまう」など正直な気持ちを伝えてくれるようになりました。

自分の気持ちと向き合えるようになってから、相談を先送りする理由を自己分析できるようになりました。支援員からのフィードバックと自己分析の繰り返しによって、報告・連絡・相談の基本を培っていったのです。

【課題2】集中力がそがれる環境で作業ができない

ミラトレでは、コミュニケーションスキルだけでなく、ビジネススキルを高めるためのさまざまなトレーニングをおこなっています。エクセルやパワーポイントなどを用いたパソコン講座では、前職の経験を活かし意欲的に取り組む様子が見られました。しかし、ほかの講座では集中力が低下し、ときには居眠りしてしまうこともあったのです。視覚や聴覚が過敏で、自分の視界で人が横切ったり、雑音が多かったりする環境では集中できないことがわかりました。

その一方、うれしい気づきもありました。パソコンスキルの高いNさんは、ほかの利用者から質問や相談を受けることが多かったのです。支援員から「スキルが高い人でも質問されるとは限りません。人柄の良さが伝わって、周囲から信頼されている証ですよ」と伝えました。プログラムを通じて自分の短所・長所に気づけたことが、大きな糧となったようです。

【課題3】会話の意図を汲み取れない

通所を重ねるうち、「自分から相談できない」こと以外にもコミュニケーション面の課題があることに気づきました。会話の中で、曖昧な表現を理解したり、相手の考えを読み取ったりすることが苦手な様子だったのです。

このような特性のある方が就労する場合、口頭の指示よりも、文字や図で表記したマニュアルがある環境の方が、仕事を進めやすくなります。ご本人はこの課題を自覚していませんでしたが、仕事選びにおける重要なポイントなので特性を理解いただけるように整理をしました。この気づきが、のちの企業実習で役立つことになります。

自己理解が深まったことで、就職への道が開けた

通所開始から半年ほどの間にコミュニケーションスキルの向上や自己理解が進み、就職活動の準備が整いました。しかし、支援員から「説明会に参加してみませんか?」と声掛けしても腰が上がらない様子でした。それでも、定期的に声掛けをおこなううち、自ら面接練習をおこなうなど心構えができていったのです。

企業実習によって、安心してはたらく場を見つけられた

集中しやすい職場を見つけるには、企業実習に参加して実際の様子を体験させてもらうことが大きな鍵でした。2社から企業実習の機会をいただきましたが、1社目の保険関連企業はご本人にとって集中できる環境ではなかったのです。正確性が求められる業務だと理解していても集中できなかったことに落ち込んでいましたが、気持ちを奮い立たせて次は金融関連企業の企業実習に参加しました。

その会社は幸いなことに人の出入りや雑音が少なく、集中しやすい職場環境でした。また、作業マニュアルが整っていたため、口頭での指示を理解しづらいNさんにとって理想的な職場環境だったのです。「この会社ではたらきたい」と決意を固め、その後の面接練習にもより一層熱がこもりました。

面接でありのままの自分を表現できた

就職活動をスタートしてから毎日のように面接練習をおこなっていました。企業に採用してもらいたい気持ちから、初めは誰しも自分の良い面だけをアピールしてしまいがちです。しかし、できないことをできると言ってしまうと、せっかく採用されても良い結果を招きません。自分の長所・短所を含めてありのまま表現できるよう、ミラトレ独自の就活ツールを活用して整理していただきました。

長期間、寄り添ってきた支援員が、面接の場で特性や思いを代弁することは簡単です。しかし、大切なのは自分の言葉で伝えること。失敗する経験も財産だと捉え、見守ることも私たちなりのサポートのひとつです。本番で悔いを残さないよう、練習の場で繰り返しフィードバックをおこないました。やがて、障害の特性や短所を含め、ありのままの自分を伝えられるようになったのです。

面接の結果、ご本人が希望していた金融関連企業への就職が叶いました。「短所も含めて自分を理解できている方ですね」という会社側からのお言葉に、ご本人も支援員も努力が報われた思いでした。

周囲から頼られる存在を目指し、意欲的な姿勢を見せる

就職後、コミュニケーション面や仕事面では問題なく、会社側からも高い評価をいただいていますが、唯一の懸念点は勤怠でした。片道1時間以上かかる職場だったため毎日の通勤が負担となり、欠勤してしまうことがありました。欠勤の多さは人事評価にもかかわるので、会社側から「有休を活用して、仕事とリフレッシュのバランスを調整してみては」と提案していただきました。その後は有休を活用しながら生活リズムを整え、安定して出勤できるようになったのです。

就職から3年が経ち、後輩社員から頼られる存在に成長した現在のNさんは、「実は、リーダーポジションを目指しています」と打ち明けてくれました。ミラトレに通所していた頃も周囲から信頼されていましたが、リーダーシップを発揮するまでにはいたらなかったので、意欲あふれる言葉を聞けたときには支援員も目頭が熱くなりました。

利用者の成長を信じ根気強く見守っていくことの大切さを、改めて実感しました。これからも、利用者一人ひとりが自分らしく輝ける道を、一緒に模索していきたいと願っています。

※プライバシー保護のため、事実をもとに文章を一部再構成しています。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。