今回紹介するのは、不安障害の40代男性の就職事例です。不安を感じると前向きになれないといった課題のあるWさんが、不安の要素に一つずつ対応し就職するまでのストーリーと現在の様子をご紹介します。
不登校から引きこもりになり、成人後に不安障害が判明
中学時代のいじめが原因で不登校になってしまったWさんは、その後約10年間引きこもり生活を送りました。20代後半ごろ、引きこもりの方を対象とした電話相談に連絡します。
すると、相談先の支援相談員から病院を受診するよう促されたそうです。初めて精神科を受診すると、不安障害であると診断されました。
就労継続支援事業所を経て、一般企業への就職を目指す
診断後のWさんは、電話相談をした支援相談員のサポートを受けながら就労継続支援B型やA型で就労訓練を始めます。そちらでは軽作業や清掃などに取り組みましたが、作業内容に物足りなさを感じていたそうです。
一般企業への就職を目指したいと支援相談員に打ち明けると、就労移行支援を利用して一つひとつ取り組むことが安心につながるのではないかとアドバイスを受けます。
苦手なことにチャレンジするためにも、オープン直後のミラトレを選ぶ
数ある就労移行支援事業所の中から、他の企業とのつながりが多い点を評価いただき、ミラトレの利用を決意していただきました。特に、利用された事業所がオープン直後ということもあり、スタッフと利用者がそれぞれ同じスタートラインを切れるのではないかと思ってもらえたようです。
新しいことや環境に苦手意識のある方でしたが、自分のチャレンジのためにもあえて新しい環境を選びました。
ミラトレの前には就労継続支援A型事業所に約2年6カ月通っていたこともあり、生活リズムが整い、体力もあることから週5日の安定通所からスタートします。
日常生活でふと不安に駆られてしまうことが多いため、就労移行支援を利用できる2年間のすべてを使っても、自身の課題に対して一つずつ取り組んでいきたいという想いがありました。
不安と共生していくために、ステップを踏んでトレーニングに取り組む
通常のプログラムやビジネスマナーなどさまざまな講座を受けていただきましたが、特に疑似就労など実践的な講座で変化が見られます。不安を強く感じると、普段おこなっている作業でも何度も確認することがあるため、ミラトレでは「こんな風にメモを取っておくといいよ」など声掛けをしました。
すべての講座を完璧にやりきりたいタイプのため、焦った時に赤面や発汗することもありましたが、講座を通じて力の抜き方なども身につけていきました。
企業実習をきっかけに就職活動をスタート
ミラトレ通所から1年が経ったころ、企業の体験実習に参加する機会がありました。企業からのフィードバックを受け、実習に行ける状態であるとわかったため本格的に就職活動を開始します。
いくつかの企業実習に参加する中で不安が大きくなってしまうこともありましたが、ミラトレ支援員が「ミラトレに入った時のこと思い出して」「何もない状態からここまでやってこれたんだよ」と励ますと、気持ちを落ち着かせることができたようです。
そのような折、以前実習させてもらった企業から、高い評価とフィードバックを得ます。それが自信につながったようで、前向きな気持ちで就職活動を継続できました。
しっかりと準備をすることで不安をカバー
企業実習で経験したことを次につなげるために、不安な気持ちに対応する準備をおこないます。書類作成はスムーズでしたが、面接練習は緊張のため少しずつ不安をカバーすることから始めました。相手の目を見て話すのが苦手で、目が合わないことを気にする様子が見られましたので、「目は合わなくてもいいから相手に向かって気持ちを伝える」ようアドバイスを送ります。
他には、「言葉が出てこないのは緊張していれば当たり前」であることや、「自分の状態を伝えて深呼吸する」ことを助言されると、素直に自分の気持ちを伝えて場を立て直せるようになりました。また、最初に聞かれた質問に答えられなくても、後から「先ほどは答えられなかったのですが…」と発言するなど、自分の状態に合わせて柔軟に対応するスキルを身につけていきます。
準備や振り返りをおこなう姿勢が企業にフィット
企業見学時の雰囲気に好感をもち、特例子会社の面接を受けたWさんはそのまま実習に進みます。不安を抑えるために実習中に取ったメモを昼休みに見返し、午前の業務の振り返りや、午後からおこなう業務内容の確認、明日以降の動き方などを確認する行動が、企業から高く評価されました。
結果、ミラトレ利用開始から1年9カ月後、この特例子会社から内定を得ます。不安障害の特性と上手に付き合ってきた結果、対処法が強みの一つになった瞬間でした。
企業に求めた配慮としては、不安を抑えるために業務中や業務完了後に確認することが多いが対応していただきたいこと、先の見通しが決まっていないと不安になることがあるため、現在決まっている内容だけでも伝えてもらいたいことなどです。
憧れの企業が自分の居場所となり、自信をもってはたらいている
特例子会社の正社員として就職して、もうすぐ1年が経ちます。現在はデータ入力や仕分け作業などの事務職としてはたらくWさん。コロナ禍で休職中だったスタッフが多い時期、初対面の方や雑談が苦手なため、復帰したスタッフとのコミュニケーションに悩んだこともありました。
しかし、上司から自己紹介をさせてもらう場をつくってもらうことで、自分と相手の共通点が見つかり、話しやすくなったといいます。
最近、ミラトレの卒業生が新人スタッフとして入社したため、先輩としてサポートしていきたいという新しい目標もできました。その姿は、初めてミラトレに来た時とは大きく異なり、希望に満ちているように見えます。
「すべてに自信をもてない状態だったのですが、ミラトレや就職先で葛藤と成功体験を重ねていく中で自信につなげていったのだと思います」と支援員は語ります。本人も憧れていた企業に就職でき、「会社が自分の居場所になっている」と語り、自分の特性と付き合いながら今日も前向きにはたらいています。
※プライバシー保護のため、事実を元に文章を一部再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。