不安障害を抱えながらはたらくことに、難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。1人で自分の適性に合った就職先を探したり、就職後の悩みと付き合ったりするのは大変かもしれません。パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用し、一般企業への就職を叶えた卒業生は多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、不安障害の50代男性の就職事例です。慣れない環境や将来に対する不安から自分の殻に閉じこもりがちだったEさんが、自分の特性と向き合い就職するまでのストーリーと現在の様子を紹介します。
人間関係の悩みがきっかけで退職
IT関連の仕事にたずさわっていたEさんは、職場での方向性の違いや異動による環境の変化によって、心のバランスを崩してしまいました。仕事に対するモチベーションが低下し、退職の道を選択します。
その後も心の不調を抱えたまま一人暮らしを続けていましたが、思い悩んだ末、離れて暮らすご家族に相談します。ご家族から「保健所に相談してみては」というアドバイスを受け、保健師と面談した結果、医療機関の受診を勧められたそうです。医療機関で診断を受けたところ、不安障害と診断されました。
ミラトレで再就職に向けたトレーニングを開始
診断後は障害と付き合いながら再就職を目指すことを決意。保健師を通じて就労移行支援制度の存在を知り、ミラトレを含めたさまざまな就労移行支援事業所を5カ所ほど見学されました。最終的にミラトレを選んでいただいた決め手は、自宅からのアクセスのよさと、利用者間の和気あいあいとした雰囲気だったそうです。
生活リズムを改善し、気力も体力も上向きになった
入所当初は生活リズムの改善が最優先課題でした。休養期間中、昼夜逆転の生活習慣になっていたため、昼型の生活に戻すべく、まずは週3日午前中のみの通所からスタートします。心身に負担がかからないよう支援員が毎日声掛けしながら体調を確認し、就寝時間を少しずつ前倒ししていきました。
生活リズムの改善と同時に、通院と処方通りの服薬を続けられるようサポートもしています。徐々に通所の滞在時間と日数を増やしながら、体内時計のリズムを整えました。
仕事への自信を取り戻すため擬似就労に取り組んだ
昼間のオフィスワークに対応できる健康状態を取り戻し、再就職に向けて本格的なトレーニングを開始します。
職場の雰囲気や業務の流れを実際に体験するトレーニングとして、擬似就労では広報部を担当してもらいました。システム管理という職歴を活かし、マクロなどのアプリケーションソフトを用いながら、広報誌や掲示物、レジュメなどの制作をしていただきました。
コミュニケーションスキルを取り戻し、強みを活かせるようになった
広報部のメンバー同士で協力しながら業務をおこなううち、ビジネススキルとコミュニケーションスキルを少しずつ取り戻していきます。持ち前のPCスキルを活かして業務効率化を図るとともに、周囲の意見に耳を傾けながら柔軟に対応されました。まじめで落ち着いた性格のEさんは、主体的に作業を進めるだけでなく、周りのメンバーへのフォローも積極的におこない、ビジネスに必要な協働性を身につけていきます。
「完璧」を手放すことで就職への心構えができた
トレーニングの中では、不安障害の特性から不安や恐怖にとらわれ、チャレンジすることをためらってしまう傾向も見られました。就職に向けて求人票をチェックするものの、「非正規雇用だと将来が約束されないのでは」「新しい環境になじめるだろうか」とさまざまな不安要素が壁となって、一歩先へ踏み切れない日々が続きます。不安との向き合い方を学んでいただけるよう、障害理解と自己理解、メンタルケアの講座を受けてもらいました。
講座だけでなく、日々のコミュニケーションを通じて「不安がゼロになることはないんだよ」「不安を抱えたままでも前に進める」ということを伝え続けました。就職活動も「まず動き出さないと、道は見えてこないよ」と声掛けしながらサポート。ご自身の中で「完璧じゃなくていいんだ」という気持ちが芽生え、少しずつ不安との折り合いをつけられたようでした。
企業実習を通じて職場の空気を体感
週5日の終日通所が安定し、ビジネススキルやビジネスマナーを習得されるとともに、自己理解も進みました。応募書類の作成が済んだタイミングで就職活動をスタート。IT系のフルタイム正規雇用を第一希望に、面接訓練や模擬面接に取り組みました。以前は面接にも恐怖心を抱いていましたが、訓練を重ねるごとに緊張感がほぐれ、落ち着いて対応できるように変化していきます。
希望する職種の企業実習の機会に恵まれ、約1週間、実際の業務を経験されました。内定にはいたらなかったものの、実習先からのフィードバックでは慎重で丁寧な仕事ぶりを評価されます。本人にとっても、久しぶりに職場の雰囲気を体感し、日頃の訓練の達成度合いを確認する良い機会になったようです。また、最新のIT技術を学べたことも大きな収穫となり、この後も前向きに就職活動を続けられました。
堅実な仕事ぶりが評価され内定を獲得する
10社近い企業への応募を経て、IT系の企業から内定をいただくことができました。前職でまじめに勤務年数を重ねた実績と、企業実習での堅実な仕事ぶりを高く評価していただいた結果です。
希望していた正規雇用枠ではありませんが、「正社員登用を目指しながらキャリアを積み重ねたい」と前向きな姿勢で入社を決意します。慎重なEさんが安心して仕事に集中するためには、フローの確認やメモをとる時間が必要なため、企業担当者にはその重要性を伝え、時間的な余裕をいただけるようお願いしました。
コミュニケーションを図り、自ら職場環境を改善
障害者雇用枠で採用されたため、入社後は障害者チームで研修に取り組みました。チームのなかにはIT業務経験の浅い方もいましたが、ミラトレ時代に培ったコミュニケーションスキルを活かし、相手にとってわかりやすく丁寧な説明を心がけたそうです。伝えたいことを受け入れてもらえなかったときは、支援員に相談してくれることもありました。「障害によってさまざまな特性があること」を説明し、背中を押し続けています。また、「自分で解決できないときは上司に相談を」とアドバイスしたところ、実際に上司に状況を説明して問題解決につながったそうです。
入社後の研修が終わった後も定期的に上司と面談して自分の気持ちを伝え、不安が大きくなる前に解消できているそうです。現在は在宅勤務ですが、運動不足解消のために始めたアウトドアスポーツを楽しんだり、会社の仲間とオンライン飲み会を開催したりと、公私ともに充実した毎日を送っています。
Eさんにミラトレの思い出を振り返ってもらうと、「当時は利用者同士でモチベーションを上げていました」と語ってくれました。ミラトレでは再就職に向けたトレーニング面だけでなく、これからも利用者同士の交流も大切にしながら、一人ひとりが互いを高め合えると感じてもらえる場所でありたいと願っています。
※プライバシー保護のため一部の文章について事実を再構成しています。
執筆 : ミラトレノート編集部
パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。