就職事例

公開日:2023/8/30
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言葉を取り戻したことで、自分に合う仕事に出会えた

医療業界/オペレーター職
高次脳機能障害の30代男性Iさんの就職事例

高次脳機能障害の30代男性Iさんの就職事例

30代/男性/高次脳機能障害

高次脳機能障害を抱えながらはたらくことに、難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。1人で自分の適性に合ったはたらき方を見つけたり、就職後の悩みと向き合ったりするのは大変かもしれません。パーソルダイバースの就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用し、一般企業への就職を叶えた卒業生は多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、高次脳機能障害の30代男性の就職事例です。会話や短期記憶に障害のあるIさんが、就労移行支援を活用して就職するまでのストーリーと現在の様子を紹介します。

難病と障害に向き合いながら、就労を決意

30代前半に指定難病と診断されたIさんは、病気の影響で高次脳機能障害であることもわかり、自宅療養の日々を送っていました。生活やリハビリテーションのサポートを受けていた地域の支援員から障害者手帳の申請をすすめられ、身体障害者手帳と精神障害者手帳を取得したそうです。

その後もリハビリテーションに励んだおかげで、医師から「障害があっても正常な日常生活を送れる」と嬉しい言葉をもらいました。そこで、やりがいのある仕事を見つけて、経済的にも自立した生活を送ろうと決意。アルバイト経験はあったものの、定職に就いた経験がなかったため、地域の支援員と相談の上、就労移行支援を利用することにしたそうです。

自宅から通えそうな就労移行支援事業所をいくつかリストアップしたなかにミラトレがあり、見学に来てくれました。「和気あいあいとした雰囲気で、スタッフも話しやすそうだ」と感じ、ミラトレへの通所を決めたそうです。

就職に向けて課題に合わせたトレーニングをスタート

これまで自宅で過ごすことの多かったIさんが、徐々に新しい環境に慣れていけるよう、週3日の通所からスタートしました。まじめな性格でプログラムに取り組む姿勢も前向きでした。障害のあることに理解はできていても、障害の特性にどう対処すれば良いのかわからない様子も見えました。

【課題1】会話のやり取りがうまくいかない

失語症をともなう障害のため、周りの人が話す言葉を理解できなかったり、自分の思いを言葉にできなかったりと、コミュニケーションを取りづらいという困りごとがありました。コミュニケーションを取りたいという思いが先走り、ますます言葉につまってしまうという様子も見られたのです。

支援員は、「あわてなくても大丈夫です。紙に書いて、考えを整理してから言葉にしてみましょう」と声掛けしました。コミュニケーションの機会を少しでも増やせるよう、グループワークや擬似就労に参加してもらいました。さまざまな人と関わるなかで、話の聞き役に回るだけでなく、ご本人から話しかけることも多くなっていったのです。

【課題2】覚えたことをすぐに忘れてしまう

もうひとつの特性として、短期記憶障害がありました。その日のできごとや、明日の予定を忘れてしまうため、記憶を呼び覚ます工夫が必要でした。

そこで、メモリーノート訓練を取り入れることにしました。時系列で自分の行動を書き込むメモリーノートは、高次脳機能障害の方に有効なリハビリテーションです。これによって、物事を頭の中で整理する力や、日頃からメモを取る習慣が身について、「また忘れてしまうのではないか」という不安を減らせました。

【課題3】ヘルスケアの習慣を身につける

プログラムに取り組む一方で、脳に疲れがたまらないよう、生活リズムを整える必要がありました。睡眠や食事を規則正しくとれているか確認するため、毎日、振り返りを実施。健康管理も訓練も順調に進み、ミラトレに通い始めて8カ月が経った頃、週5日の通所に切り替えました。

希望する職種の範囲を広げて就職活動を進めていく

週5日フルタイムの通所が3カ月ほど続いた頃、就労できる力が身についたと支援員が判断し就職活動に対する意欲を確認しました。ミラトレへの通所開始から1年2カ月が経ったタイミングで就職活動を開始します。

面接練習を繰り返すことで、相手の意図を汲み取れるようになる

高次脳機能障害あるIさんにとって、面接で試験官の言葉を理解し、正しく返答することが大きな課題でした。面接練習では、質問の内容と合わない返答をしてしまうことがありました。

一つひとつの質問を振り返り、質問の意味や目的について考えてもらう時間をつくるようにしました。練習を繰り返すうちに、質問の意味を考えながら返答ができるようになりました。

企業実習に参加し、やりがいを感じる仕事と出会う

就職活動を始めた頃に希望した職種は配送業。アルバイトで郵便物の仕分けをしていた経験を活かしたいというお話でした。しかし、配送業に絞ると求人数は限られてしまいます。自分に合ったはたらき方を見つけてもらうためにも、少し視野を広げた方が良いのではないかと話し合い、対象を軽作業全般に広げることになりました。

そんな時、水耕栽培の求人情報が入ってきました。Iさんが農業高校出身で、植物への関心が高いことを知っていた支援員は、さっそく、応募を勧めます。企業実習に参加したところ、作業手順が貼りだされており、記憶障害があってもはたらきやすい環境や、スピードより丁寧さを求める点が、自分に合っていると感じたそうです。企業からも、まじめで前向きな性格と丁寧な仕事ぶりが認められ、内定をいただきました。

好きな仕事を長く続けることが現在の目標

ミラトレへの通所開始から1年6カ月目に就職を叶え、毎日意欲的に仕事に取り組んでいるそうです。仕事内容は、決められた数の種を植えたり、ハサミでハーブを収穫したりと、数の把握や手先の器用さが求められます。それらは、ミラトレの擬似就労で繰り返しおこなった作業だったので、慣れるまであまり時間はかからなかったといいます。

コミュニケーションの訓練に励んだかいがあって、職場の人間関係も良好な様子。企業の担当者からは、「チームの仲間から慕われるムードメーカーですよ。彼がいてくれるおかげで、職場の雰囲気がよくなりました」とうれしいご報告をいただきました。

農業への関心がますます高まって、今では仕事だけでなく、プライベートでもハーブを栽培しているそうです。「採れたハーブで料理を作り、家族にふるまっています。最高の仕事環境に恵まれて幸せです。もっと体力をつけて、長くはたらき続けたい」と話してくれました。

※プライバシー保護のため、事実をもとに文章を一部再構成しています。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。