基礎知識

公開日:2023/9/30
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就労移行支援の制度解説

うつ病による退職でも雇用保険は受給できる?受給までの流れと傷病手当金との違い

うつ病による退職でも雇用保険は受給できる?受給までの流れと傷病手当金との違い

うつ病によって退職を考える際、今後の生活のために雇用保険について知りたい方もいるでしょう。雇用保険は、失業保険や失業手当、失業給付金とも呼ばれ、失業中の生活を経済的に支える制度です。雇用保険を受給するための条件や手続きは、退職前に知っておくと安心です。

また、うつ病などの病気やけがで休職する方の生活を守る制度として傷病手当金がありますが、雇用保険との違いがわからない方もいるかもしれません。今回は、雇用保険の給付条件や申請の流れ、傷病手当金との違いについて解説します。

雇用保険とは

雇用保険とは、離職した方が安定した生活を送りながら再就職を目指せるよう、経済的にサポートする公的制度の一種です。正式名称は、雇用保険の「基本手当」ですが、失業保険や失業手当、失業給付金など、さまざまな呼び方があります。失業したら誰でも受け取れるわけではなく、給付条件や期間が定められています。

雇用保険の給付条件

受給には、下記のように一定の条件があります。
【給付条件】
  • 離職日以前の2年間に12カ月以上、雇用保険に加入していたこと(特定の条件にあたる場合は、1年間に6カ月以上)
  • 給付の申請をした後、ハローワークなどで求職活動をおこなっていること(公共職業訓練などを受けている場合は、求職活動をおこなっていなくても給付される場合がある)
給付を受けるには、「求職活動をおこなっていること」が条件のひとつです。そのため、下記の方は、基本的に給付を受けられません。
【給付を受けられないケース】
  • 病気やけがのため、すぐ就職できない※
  • 妊娠や出産、育児のため、すぐ就職できない※
  • 離職した後、しばらく休養する予定※
  • 家事に専念する
  • 学業に専念する
  • 転職先が決まっている、あるいは自営業を始めるなどの理由で、就職活動をおこなわない(またはおこなう必要がない)
  • ※印に該当する方は、申請することで受給期間の延長が可能

雇用保険の給付日数・受給期間

給付される日数は、90日~360日の範囲内で、年齢や雇用保険の加入期間、離職した理由などに応じて決められます。たとえば、倒産や解雇のようにやむをえず離職した「特定受給資格者」は、給付される期間が延長される場合もあります。雇用契約が更新されなかったことで離職した方を「特定理由離職者」といい、「特定受給資格者」と同じように、比較的長い日数にわたって給付を受けられる場合があります。

受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間ですが、その間に病気などで30日以上連続してはたらけなくなった場合、その日数だけ受給期間を延長できます。延長できる期間は最長で離職日の翌日から4年以内です。

雇用保険の支給額

雇用保険の1日当たりの支給額は、離職日以前の賃金や年齢によって決められます。基本的には、離職日以前の6カ月間に支払われていた月給の合計を180で割った額の50%~80%(60歳~64歳については45~80%)です。50%~80%という幅がありますが、賃金の低い方ほど割合が高くなります。ただし、年齢ごとに上限額が決められており、30歳未満は6,945円、30歳以上45歳未満は7,715円、45歳以上60歳未満は8,490円、60歳以上65歳未満は7,294円までです。

※参考:「ハローワークインターネットサービス 基本手当について

うつ病で退職した際の雇用保険申請の流れ

うつ病で退職した場合も雇用保険を受け取れるのでしょうか。申請前に知っておきたいことや、申請の流れについて紹介します。

うつ病で離職した方が雇用保険を受給できる場合

前の章で紹介したように、「けがや病気ですぐに就職できない(求職活動ができない)」場合は雇用保険を受給できません。そのため、長期うつ病ではたらくことが難しい方も受給できない場合があります。自分がはたらける状態にあるのかを、まずは医師に相談してみましょう。

医師から、今ははたらける状態ではないと判断された場合も、「就職困難者」に認定されると雇用保険を受給できる可能性があります。就職困難者は障害者手帳を持つ人が対象となり、ハローワークへの申し出が必要です。障害者手帳を持っていなくても、統合失調症やそう病・うつ病(躁うつ病)、てんかんの方は、医師の診断書を提示すれば認定されます。

また、経済的な支援は雇用保険だけではありません。その他の支援制度の活用も検討してみましょう。たとえば、雇用保険の待機期間に無利子で貸付を受けられる「臨時特例つなぎ資金貸付制度」や、病気やけがによって日常生活や仕事が制限された場合に受け取れる「障害年金」などがあります。

雇用保険の申請から給付金受け取りまでの流れ

雇用保険の申請は、原則として離職した翌日から1年間と決められています。必要な書類を用意し、ハローワークで手続きをおこないましょう。
【申請に必要なもの】
  • 雇用保険被保険者証
  • 離職票
  • 個人番号確認書類
  • 身元確認書類
  • 上半身の写真2枚(縦3cm✕横2.4cm)
  • 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
※参考:「厚生労働省 全国ハローワークの所在案内

【雇用保険の申請から給付金受け取りまでの流れ】
1回目の給付金受け取りの後は、4週間ごとにハローワークに行き、失業認定申告書と雇用保険受給資格者証を提出して、失業認定を受けます。再就職が決まるまで、失業の認定と受給を繰り返しますが、前の章でもご紹介した通り、給付期限は最長1年間です。この期間を過ぎてしまうと、所定の給付日数が残っていても給付が受けられなくなります。なるべく早めに申請をおこないましょう。

傷病手当金とは

雇用保険は離職した方を対象にした手当ですが、休職中の方を対象とした経済的支援として傷病手当金があります。休養のために十分な収入を得られないと認定された場合、生活を保障するために支給されます。

傷病手当金の給付条件

傷病手当金を受給するには、下記の条件のすべてを満たす必要があります。

【傷病手当金の給付条件】
  • 業務外の病気やけがで仕事に就くことができない状況である(業務中の病気やけがは労働災害保険の支給対象となる)
  • 療養のため業務ができない状態である
  • 4日以上仕事を休んでいる
  • 給与の支払いがない(一部支給されている場合は、傷病手当金から給与分を差し引いて支給される)
うつ病で休職される場合も下記に当てはまる場合は、支給額の一部、もしくは全額を受け取れない場合があります。
  • 休職期間中に給与の支払いがあった
  • 障害厚生年金または障害手当金を受給している
  • 老齢退職年金を受給している
  • 労災保険から休業補償給付を受給していた(受給している)
  • 出産手当金を同時に受給する

傷病手当金の支給期間

療養のために仕事を3日間連続して休んだ方は、4日目から支給されます。支給される期間は、支給開始日から1年6カ月です。

傷病手当金の支給額

傷病手当金の1日当たりの支給額は、おおよそ月給の3分の2です。計算方法は下記の通りです。

「支給開始日以前、12カ月間の標準報酬月額を平均した額」÷30×(2/3)

標準報酬月額は、月給を一定区分に分けたもので、給与明細書で確認が可能です。1等級の5万8000円から50等級の139万円まで、50等級に分かれています。
支給開始日以前の期間が12カ月に満たない場合は、支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額、または標準報酬月額の平均額のいずれか低い額を使用して計算されます。

※参考:「全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

雇用保険と傷病手当金との違いについて

ここまで紹介したように、雇用保険の対象者は「はたらける状態にあり、仕事を探している方」で、傷病手当金の対象者は「はたらけない状態にあり、仕事を休んでいる方」です。対象者が異なるため、2つの手当を同時に受け取ることはありえません。

雇用保険と傷病手当金の違い

傷病手当金を受給しながら休職する場合、1年6カ月経過すると、はたらけない状態が続いていたとしても、傷病手当金の支給は終了します。うつ病の状態によっては、傷病手当金の支給が終了した後も経済的サポートを受けられるよう、障害年金の申請を考えておいた方が良いかもしれません。

はたらける状態にまで体調が回復したけれども、元の職場に戻らず新しい仕事を探す場合、傷病手当から雇用保険に切り替えるケースもあります。ただし、雇用保険の受給が決定しても、すぐに支給されるわけではありません。手当が支給されるまで7日間の待機期間があるため、求職申込みができるようになったら同じタイミングで雇用保険の申請をおこないましょう。

うつ病で退職した方の再就職事例

うつ病で退職した後、就労移行支援を利用して再就職した事例を紹介します。

自分の得意なこと・不得意なことを受け入れ、前向きに就職活動ができた

40代男性のAさんは、クレーム対応業務が続いたことから体調を崩してうつ病を発症。休職期間を経て退職した後、長期就労を目指して就労移行支援事業所「ミラトレ」の利用を決めたそうです。通所を開始した頃は、障害特性を受け入れられない様子でしたが、トレーニングを重ねるうちに、自分の得意なことや不得意なことがわかってきたそうです。特性への理解が進んだことで、再就職への道が開けました。

※関連記事:「うつ病の40代男性Aさんの就職事例

不安への対処法が身につき、再就職に向けて勇気をもてた

持続性抑うつ障害と診断された20代女性のXさんは、仕事を辞めて1年間の休養期間を過ごしました。その後、就職活動に励み内定を獲得しましたが、出社することができなかったそうです。自己理解を深めるため「ミラトレ」への通所を決意。メンタルケア講座などを通じて体調のコントロール方法を身につけ、就職への自信を深めていきました。通所開始から11カ月後に内定を獲得し、現在は正社員として活躍しています。

※関連記事:「持続性抑うつ障害の20代女性Xさんの就職事例

うつ病の方には就労移行支援の利用がおすすめ

一般企業への就職を目指す長期うつ病の方には、就労移行支援の利用をおすすめします。就労移行支援とは、「訓練等給付」と呼ばれる障害福祉サービスの一つで、障害のある方の就職と安定就労をサポートする制度です。雇用保険と訓練等給付は同時に受給することが認められており、手当を受け取りながら就労移行支援事業所に通所できます。

就労移行支援事業所「ミラトレ」では、長期うつ病の方も長くはたらくための力を身につけられるよう、一人ひとりの特性に応じたトレーニングをおこなっています。就労に向けたトレーニングだけでなく、就職活動の支援や就職後の定着支援によって、障害に対処しながら長くはたらき続けたいという方をサポートします。就労移行支援についての疑問や、「ミラトレ」についてのご質問、就職に関するご相談など、気軽にお問い合わせください。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。