基礎知識

公開日:2024/11/26
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就職ガイド –はたらく選択肢-

統合失調症ではたらきづらさを感じたら退職するべき?退職前にできることと退職までの流れ

統合失調症ではたらきづらさを感じたら退職するべき?退職前にできることと退職までの流れ

統合失調症とは、認知機能障害や幻覚、妄想などの症状が現れることのある精神疾患です。一生涯で発症する人の割合は約100人に1人といわれており珍しい障害ではありませんが、原因はいまだ明らかになっていません。脳機能の乱れやストレス、遺伝的要因などさまざまな原因が考えられています。

統合失調症を発症すると、思考力や集中力が低下して業務に影響が出たり、周りの目が気になって人間関係が円滑に運ばなくなったりして、はたらきづらさを感じることがあるかもしれません。統合失調症の悩みは一人で抱え込まず、周囲の理解を求めることが大切です。また、退職するかどうかは慎重に考える必要があります。今回は、退職前にできることや、退職しても前向きに次のステップへ進むための準備について解説します。


※関連記事:『会社が怖いと不安を感じる人は適応障害の可能性も。うつ病との違いや対処法について
※出典:厚生労働省『令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況

統合失調症で退職を検討する前に実行したい5つのこと

統合失調症によって仕事に影響が出ると、「会社に迷惑をかけるなら退職すべきではないか」と考える人がいるかもしれません。しかし、会社には従業員のヘルスケアに配慮する義務があるため、気後れせず障害への理解と協力を求めましょう。ここからは、統合失調症で退職を検討する前にできることを紹介します。

家族に相談する

退職という選択肢が頭に浮かんだら、まずは自分の状況や思いを家族に伝えましょう。統合失調症は認知機能障害によって判断力や思考力が低下することがあります。自分一人で決断を下さず、家族に助言を求めながら、後悔しない道を一緒に探りましょう。一人ではないという安心感は、症状の緩和にもつながります。

医師に相談する

体調が悪いときは先の見えない不安から、退職という決断を焦ってしまうことがあるかもしれません。しかし統合失調症は、投薬やリハビリテーションなどの適切な治療を続ければ、再発率を10%以下に抑えられるといわれています。治療と仕事を両立できるのか、仕事を続けるにはどのようなことに注意すれば良いのか、医師に相談しましょう。医師は、症状や仕事内容、特性などを総合的に踏まえ、助言してくれます。

退職以外の選択肢も考える

統合失調症によってはたらきづらさを感じている反面、「仕事にやりがいをもっている」という人もいるでしょう。これまで培ってきた実績や仕事への熱意を大切に、退職以外の選択肢にも目を向けてみましょう。そのためには、障害への理解を深め、症状や困りごとを自覚することが大切です。症状が現れるタイミングや予兆も把握しておきましょう。障害理解は、困りごとを周囲に説明する上でも重要です。

はたらき方を変更する

統合失調症の人は緊張や疲れを感じやすく、時間が不規則な仕事や交渉力が求められる仕事は不向きな場合があります。仕事にストレスを感じている人は、特性に合った仕事ができるよう、勤務時間の短縮や配置転換、職場環境の調整を上司に相談してみると良いでしょう。

休職して心身を整える

有給休暇や休職制度を活用し、心身の安定を図ってから復職するのもひとつの方法です。休職後の職場復帰に不安を感じる人には、復職に向けたリハビリテーションプログラム「リワーク制度」の活用をおすすめします。

※関連記事:『長期休職中の方に必要なリワークとは?取り組み内容やリワークの効果について解説

統合失調症で会社を退職する際のステップ

はたらき方を調整したり休養をとったりしても症状が回復しない、という人は退職を視野に入れる必要があるでしょう。統合失調症は再発を繰り返すと、回復に時間がかかってしまうケースがあります。家族や医師、上司と相談した上で退職を決意したら、体調の安定を優先しながら退職準備を進めましょう。

ステップ1:医療機関で診断書をもらう

上司や人事担当者に退職を相談する際、医師の診断書を提出することで手続きがスムーズになる場合があります。医療機関によって異なりますが、診断書の発行には1日~2週間程度かかるため、早めに依頼しましょう。医師が、病状や退職の必要性について正しく記載できるよう、診察では心身の状態をありのまま伝えることが大切です。

ステップ2:退職の意思を家族に伝える

退職の前後は手続きが必要だったり、環境が変化したりして、あわただしい日々が続くかもしれません。退職の意思を家族に伝えておくだけでも、気持ちが楽になるでしょう。本人と家族がひとつのチームとなって、障害や仕事に向き合う形が理想的です。退職を切り出すタイミングをつかみづらいかもしれませんが、なるべく早めに伝えることをおすすめします。

ステップ3:退職の意志を上司に伝える

上司に面談を申し込み、事情を説明した上で退職の意志を伝えます。法律上、退職の申し出は2週間前までにおこなえば良いとされていますが、一般的には1カ月~3カ月前の申し出がマナーです。会社の就業規則に退職を申し出る時期や方法が記載されている場合は、その定めに従いましょう。会社の合意を得られたら、引き継ぎ方法や取引先へのあいさつ、貸与物の返却などについて相談します。

ステップ4:社会保険に関わる手続きの準備をする

社会保険の切り替えがスムーズにおこなえるよう、人事担当者と相談しながら準備を進めます。
社会保険の種類 必要な手続き
社会保険(健康保険)

職場の社会保険(健康保険)に加入している場合、退職後の社会保険は下記のいずれかに変更します。保険料などを比較しながら選びましょう。

(1)現在の健康保険を任意継続する

「協会けんぽ」の場合は協会けんぽ支部へ、「健康保険組合」の場合は各健康保険組合に相談する
(2)国民健康保険に切り替える

お住まいの市区町村役所に設置されている国民健康保険の係に相談する
(3)家族の健康保険に扶養加入する

保険に加入している家族の勤務先を通じて加入する

年金 会社の厚生年金に加入している場合、資格喪失日から14日以内に国民年金へ切り替える必要があります。お住まいの市区町村役所の年金窓口や年金事務所で手続きします。保険料の納付が難しい場合は、免除の申請をおこないましょう。

雇用保険(失業保険)
退職前に最寄りのハローワークへ相談しましょう。

職場の社会保険を脱退する場合、退職日から5日以内に本人と被扶養者の健康保険証を会社に返却しなければなりません。保険は退職日まで適用されるため、有給休暇を消化する場合も退職日の後に返却します。ただし、返却のタイミングや方法は会社の定めに従うことが大切です。事前に会社の人事担当者に確認しましょう。

※参考:『全国健康保険協会 会社を退職するとき
※参考:『日本年金機構 会社を退職したときの国民年金の手続き

適応障害で退職する際の伝え方

退職願は、書面で作成し直属の上司に手渡しする提出方法が望ましいとされています。しかし、心身の状態が安定せず退職願を手渡しできない場合、メールや郵送でも法的には問題ありません。しかし、いきなりメールや郵送するのではなく、事前に対面または電話などで事情を説明し、許可を得た上でおこなうと良いでしょう。

会社に退職願の規定がある場合を除き、書き方に定めはありませんが、退職理由と退職日、名前は忘れず記載しましょう。退職理由として適応障害にふれる必要はなく、「一身上の都合」や「健康上の理由」で問題ありません。職場の人に感謝の気持ちを伝えたいときは、挨拶文を作成するのも良いでしょう。

「退職願」と「退職の挨拶」の文例を紹介します。
  • 【退職届 文例】

                    退職届

                                   ✕✕年✕✕月✕✕日

    株式会社〇〇
    代表取締役 〇〇殿

                                      △△部 △課
                                       氏名(印) 

                                          私儀

    このたび一身上の都合により、
    勝手ながら、〇〇年〇月〇日をもって退職いたします。

                                          以上
退職手続きに不安や不明点があるときは、以下の専門機関に相談してみてはいかがでしょうか。

労働条件相談「ほっとライン」
日本司法支援センター(法テラス)

統合失調症で退職した後に活用したいサポート

統合失調症で退職した場合、さまざまな支援制度を活用できる可能性があります。条件などを確認の上、対象となっている場合は積極的に活用して、退職後の暮らしに役立てましょう。

雇用保険(失業保険)

退職した人が新たな仕事につくまでの間、手当を支給する制度です。ハローワークで失業認定を受けたのちに支給されますが、自己都合退職の場合、2カ月間の待機期間があるため注意が必要です(2025年度以降は待機期間が1カ月間となり、退職前に教育訓練を受けていれば7日間に短縮されます)。初回申請後も、4週間に一度、ハローワークで失業認定を受けなければなりません。給付日数は、雇用保険の加入期間や年齢などに応じ、90日~360日の間で定められています。

※参考:『ハローワーク 基本手当について

自立支援医療制度

自立支援医療制度とは医療費の自己負担額を軽減する制度で、継続的に通院している統合失調症の人も対象です。外来診療費や向精神薬代、精神科デイケアの利用費などが対象となり、通常3割の自己負担額が原則1割になります。ただし、所得に応じて負担上限額が異なります。自治体によっては独自の助成制度を実施している場合もあるため、お住まいの市区町村役所で確認してください。

※参考:『厚生労働省 自立支援医療(精神通院医療)の概要

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やけがによって休職した人に、会社から給与が支払われていない場合、一定の手当が支給される制度です。次のような条件を満たす場合、退職後も引き続き傷病手当金を申請できます。

申請書は、健康保険証に記載されている管轄の協会けんぽ支部に郵送します。受給できる期間は、支給開始日から最長1年6カ月です。
  • 条件
    (1)退職日までに1年以上継続して健康保険に加入していること
    (2)退職日の前日までに、療養のため続けて3日以上休職し、退職日も療養のためにはたらけていないこと
    (3)失業保険を受けていないこと
    (4)在職中と同じ病気や障害によって、退職後も療養のためにはたらけない状態であること
    (5)はたらけない期間が継続していること(断続的な支給は受けられない)

障害者手帳

障害者手帳は身体障害者手帳など3種類の手帳の総称で、統合失調症の人は精神障害者保健福祉手帳を取得できる場合があります。手帳を受けるには、統合失調症の初診日から6カ月以上経過していなければなりません。手帳を取得していると、公共料金の割引や税金の控除などさまざまなサービスを受けられます。申請は、お住まいの市区町村役所の担当窓口でおこなってください。

障害年金

厚生年金や国民年金の加入者が病気などではたらけなくなった場合に支給される年金です。障害の程度に応じて3つの等級が設けられており、等級によって支給される年金額が異なります。まずは、年金事務所などで条件を満たしているか確認してみましょう。

労災保険

労災保険とは、仕事や通勤によって病気やけがを負った人に、必要な補償をおこなう制度です。統合失調症の場合、発症前のおおむね6カ月以内に仕事によって強いストレスを受けたと判断されると、補償される可能性があります。障害補償給付や療養補償給付の対象となる場合があるでしょう。申請は労働基準監督署の窓口で受け付けていますが、労災病院や労災指定病院で治療を受けた場合の療養補償給付については病院へ申請します。

※参考:『厚生労働省 労災保険相談ダイヤル

生活保護

生活保護とは、障害や病気などによって生活が困難な人を対象に、最低限の生活に必要な給付をおこなう制度です。障害年金1・2級や障害者手帳1~3級に該当する人は、障害者加算があります。申請については、お住まいの地域の市役所福祉窓口に相談してください。

これらの支援制度は必ずしも併用できません。たとえば、障害年金と雇用保険は同時に支給されないケースがあります。詳しくは、障害者相談支援センターなどの相談窓口で確認すると良いでしょう。

統合失調症の退職でよくある質問

統合失調症で退職する際によくある質問をまとめました。

Q.1 統合失調症で退職をした場合、雇用保険(失業保険)を受けられる?

A.統合失調症で退職した場合も、離職前の2年間に12カ月以上の雇用保険加入期間があり、再就職の意思があれば原則として給付を受けられます。また、統合失調症の人は「特定理由離職者」として、受給の条件が緩和されたり、給付期間が長めに設定されたりする可能性もあるでしょう。

Q.2 統合失調症での退職は自己都合退職になる?

A.会社から退職を勧奨された場合を除き、統合失調症での退職は自己都合退職として扱われるのが一般的です。

Q.3 統合失調症で即日退職はできる?

A.民法によると、退職は2週間前までに申し出るよう定められていますが、会社の同意があれば即日退職も違法ではありません。診断書を提出し、一刻も早く療養しなければならない状態であることを会社に説明すれば、即日退職できる可能性もあります。しかし、欠員の補充や引き継ぎを完了し円満に退社するには、少なくとも1カ月前に申し出ることが望ましいでしょう。

「ミラトレ」では特性理解と再就職を専門家がサポート

統合失調症の再発を防ぎながら長くはたらくには、自分の特性を理解することが大切です。自分に合うはたらき方や、適切なサポートを受けられる職場を見つけるには、特性への理解が欠かせません。特性への対処法や正しい生活習慣を身につけると、統合失調症と折り合いやすくなるでしょう。「専門家のサポートを受けながら、自分に合うはたらき方を見つけたい」という方には、就労移行支援制度の活用をおすすめします。

就労移行支援事業所「ミラトレ」では、体調管理法やビジネススキルを身につけながら、「自分に合うはたらき方」を支援員と一緒に見つけていきます。書類作成や面接対策などの就職活動もきめ細やかにサポート。就職後も、日常や仕事での困りごとに寄り添いながら、職場への定着を支援していきます。「支援内容について知りたい」「自分の障害や就職について相談したい」という方は、お気軽にミラトレへご相談ください。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。