基礎知識

公開日:2024/5/31
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就職ガイド –はたらく選択肢-

大人の発達障害とは。職場での困りごとや対処方法と相談先

大人の発達障害とは。職場での困りごとや対処方法と相談先

大人の発達障害とは、生まれつき発達障害のある人が大人になってはじめて障害が明らかになるケースを指します。発達障害がある人のなかには、子どもの頃に診断基準を満たさなかったグレーゾーンの人や、周囲のフォローによって日常生活に問題がなかったために、受診するきっかけがなかったという人も少なくありません。近年、大人になってから発達障害と診断されるケースが増えています。大人の発達障害が明らかになる背景や職場で発生しやすい困りごと、障害と折り合いをつけながらはたらくためのポイントなどを紹介します。

大人の発達障害とは

大人の発達障害とは、成人してから障害が明らかになった場合の発達障害を指します。発達障害は脳のはたらき方の違いによる生まれつきの特性のため、「大人になってから発達障害になる」ということはありません。近年では、子どもの頃に受診や診断の機会がなかったことで「大人になってから発達障害が明らかになる」というケースが増えています。

その背景には、子どもの頃に発達障害の特性があっても、個性のひとつとして周囲の人が受け止め、家族を含め本人も発達障害に気づかなかったなどの場合があります。ほかには、子どもの頃から発達障害の傾向はあったものの診断にはいたらず、グレーゾーンとして認識されていたケースもあります。

しかし、進学や就職などで、これまで理解してくれた人やフォローしてくれた人と離れたり、人間関係が複雑になったりすると、自分だけで解決していくことが難しい困りごとが増えて、発達障害に気づくことがあります。また、環境の変化になじめずうつ病などの症状で医療機関を受診し、はじめて発達障害があることが明らかになるケースもあります。

※関連記事:『発達障害の人の仕事選びのポイントや長くはたらき続けるコツ

大人の発達障害によって生じる職場での困りごとや対処方法

発達障害は、特性によって主にADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)の3つに分けられ、人によって特性やそのあらわれ方はそれぞれ異なります。大人の発達障害がある人は、得意な分野ですぐれた力を発揮することがありますが、仕事や人間関係で困りごとを感じることも多いようです。3つの障害別に、困りごとの特徴や対処方法をみていきましょう。

ADHD(注意欠如・多動症)

ADHDには、忘れ物やうっかりミスなどの「不注意」症状と、落ち着きがないなどの「多動性」「衝動性」症状がみられます。一般的には12歳より前にこれらの症状があらわれ、成長しても症状そのものに違いはありませんが、社会生活で課題を感じやすいといえます。
困りごと 対処方法の一例

注意不足によるミスが多い

●作業結果の見直しを徹底する
●文書で指示を受けたり、チェック表を活用して、自分でミスを発見できる状態を作る
興味のないことへの集中力が続かない ●集中する時間と休憩する時間を時間で区切って取り組む
●机の上に物を置かないなど、集中しやすい環境を整える
ひとつのことに集中するとほかのことに気が回らない ●ToDo(やること)リストを目立つ場所に貼って、こまめに確認をする
整理整頓が苦手 ●整理だけをおこなう時間を設ける
●正しい保管状態の写真を撮ったり、保管場所を図にして、それをみながら整理する習慣をつける
●書類をデータ化する
忘れ物が多い ●持ち物リストを作り、事前に準備する
●バッグインバッグを活用して、必要なものは常にひとまとめにしておく
約束や時間を守ることが苦手 ●リマインダーアプリを活用する
●時間管理アプリやタスク管理ツールを活用する
貧乏ゆすりが止められない ●症状が悪化しないよう、適度な睡眠・休憩を取る
●運動によって多動を減らせる場合があるため、出勤前にジョギングなどの時間を設ける
場に相応しくない発言をしてしまう ●話す前にいったん頭の中で考えを整理して言葉を選ぶ
●自分の発言を客観的に見る習慣をつける
一人でずっと話してしまう ●相手の話をさえぎりそうになったら口を手でふさぐなど、自分でルールを決めて話を最後まで聞く
●相手はどんなことを考えているのか想像する習慣をつける

ほかには、あいまいな指示で行動を求められることや、優先順位や時間配分を考えながらおこなうマルチタスクが苦手な人もいます。その場合は、ひとつずつ指示を受けて取り組んだり、時間で区切って進捗を報告することで、業務に取り組みやすくなるでしょう。注意不足によるミスが多い人は、時間管理アプリやリマインダーアプリなどのツールを活用してタスクを整理することで、一つひとつの作業を確認する時間をつくれます。また、興味のないことに集中できない人は、「ポモドーロ・テクニック」を活用してみてはいかがでしょうか。あらかじめタイマーをセットしておき、25分間集中したら5分間の休憩をはさむ方法によって、集中力を高められる可能性があります。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASDは過去にさまざまな名称で呼ばれていましたが、自閉症や広汎性発達障害、アスペルガー症候群などをまとめてASD(自閉スペクトラム症)と呼ぶようになりました。個人差はありますが、ASDの主な特徴として集中力の高さやこだわりの強さが挙げられます。特性にあった仕事で能力を発揮できる一方、コミュニケーション面の困りごとが多いといわれています。
困りごと 対処方法の一例
暗黙のルールを理解することがむずかしい ●ルールは指示を具体的に示してもらう
●事実と、考えや気持ちは、区別して話してもらう
自分の気持ちを伝えたり、他者の気持ちを理解するといったコミュニケーションが苦手 ●コミュニケーションを取る人を決めてもらう
●定期面談など、落ち着いて話す場を作ってもらう
手順通りに進まないと混乱する ●工程表を準備して、全体を理解してから取り組む
●手順変更の際は事前に通知してもらう
大きな音や特定の音にストレスを感じる ●ノイズキャンセリングイヤホンを活用する
●静かな場所への席移動をお願いする
光など目から入る刺激にストレスを感じる ●パソコンの輝度を下げる
●偏光レンズメガネやパソコン用メガネを使用する●照明の取り換えや遮光カーテンの設置など、職場環境の調整をお願いする
疲れに気づきにくい ●アラームを活用しながら定期的に休憩する

ASDの人は、口頭で指示を受けるより、図や写真入りのマニュアルがあると、今からおこなう内容をイメージしながら仕事を進めやすいでしょう。また、急な予定変更への対応が苦手という一方で、同じ作業を繰り返すことには向いている場合もあるため、特性を活かした仕事選びで対処できる可能性もあります。

LD(学習障害)

LDは、知的な発達に遅れはないものの、読み書きや計算に困難を生じる障害です。症状には、「読み書き障害(ディスレクシア)」「書字障害または書字表出不全(ディスグラフィア)」「算数障害(ディスカリキュア)」という3つのタイプがあります。年齢にふさわしくないようなミスが起こることもあるため、業種や職種によってはたらきづらさを感じることもあるでしょう。
困りごと 対処方法の一例
資料を読む、文章で理解することがむずかしい ●読み上げソフトやカラーバールーペを活用する
●マニュアルをじっくり読む時間を作ってもらう
●読む代わりに実際の作業を見せてもらう
計算がむずかしい ●電卓を使用し、ダブルチェックをお願いする
メモを取ることが苦手 ●メモをとる時間を長めにとってもらう
●PCやスマホでメモを取る
●書いた内容を復唱して確認する
●メモを取らなくても理解できる、単純な作業をさせてもらう
時間を把握しづらい ●時間管理アプリを活用する
自分の考えを発言することが苦手 ●事前に、自分の考えを紙に書き出すなどまとめておく
●発言する順番を後ろにしてもらう

LDの人は読み書きや計算がまったくできないわけではなく、人より時間がかかったり、苦手だったりします。3つの特徴がどの程度あらわれるかは人によって異なるため、自分の苦手分野を把握することが対処への第一歩です。自分の力だけでなんとかしようとがんばるよりも、苦手なことをカバーしてくれる道具を活用したり、周囲の人に相談したりすることで理解が得られ、サポートにつながることもあるでしょう。

大人の発達障害かもしれないと思ったときのサポート機関

発達障害のある人が困りごとを感じているものの、周囲の合理的配慮を受けられない状態のままで仕事を続けると、適応障害などの二次障害を招く可能性があります。大人になってから発達障害かもしれないと思ったら、早めに専門家に相談しましょう。その際、子ども時代の様子がわかる母子手帳や通知表、連絡帳などの資料を持参すると良いでしょう。ここでは、専門家のサポートを受けられる主な機関を紹介します。

市町村保健センター

市町村保健センターは、大人の発達障害の診断の有無にかかわらず相談できます。各市区町村に設けられているので、受付窓口に問い合わせるか、インターネットで「お住まいの都道府県または市区町村名」と「市町村保健センター」をキーワードにして検索してみましょう。電話と窓口のどちらでも相談可能です。必要に応じて関連機関と連携し、適切な医療機関を紹介してくれるでしょう。

発達障害者支援センター

発達障害のある人とその家族が豊かな地域生活を送れるようさまざまな相談に応じ、指導とアドバイスをおこなっています。市町村保健センターと同様に、診断の有無にかかわらず利用できるので、「発達障害かもしれない」と思ったら相談してみてはいかがでしょうか。最寄りの発達障害者支援センターは、『発達障害者支援センター・一覧』で確認できます。

大学の学生相談室

大学に通っている人を対象に、カウンセラーが相談に応じてくれる機関です。「障害学生支援室」などの名前で、障害のある学生のための専門機関を設けている大学もあります。

医療機関(病院・クリニック)

発達障害は、精神科または心療内科で診断を受けられます。専門医のいる医療機関に心当たりのある人は、相談機関をはさまず直接診察を受けても良いでしょう。問診では、子ども時代の生活や現在の困りごとについて質問されます。子ども時代のエピソードなど自分で記憶していないことについては、できれば家族に聞くなどしておいて、ありのままを伝えましょう。必要に応じて心理検査などのスクリーニング検査をおこなう場合もあります。

就労移行支援事業所

一般企業への就職を目指す障害のある人を対象に、就労に向けたトレーニングや支援をおこなっている福祉サービスのひとつです。障害者手帳を取得していなくても発達障害の診断を受けていれば、利用できる場合があります。ビジネススキルだけでなく特性への対処や正しい生活習慣など、はたらくための基礎力を養えるでしょう。プログラム内容や雰囲気は事業所によって異なるので、利用前に見学・体験してみることをおすすめします。

就労移行支援事業所「ミラトレ」を利用した発達障害のある方の就職事例

大人の発達障害に対する理解を深め、困りごとへの対処方法を身につけるステップとして就労移行支援制度の活用もあります。発達障害によって仕事が長続きしなかった方が、就労移行支援事業所「ミラトレ」でのトレーニングを通じて自分にあったはたらき方をみつけるまでのストーリーを紹介します。

「できないこと」を受け入れて、自分らしいはたらき方を実現

仕事が長続きしないことに悩んでいたAさんは、社会人生活を10年送ったのち発達障害であると診断されました。就職活動の方法をこれまでと変えるため、就労移行支援事業所「ミラトレ」の利用を決意。トレーニングを通じて、「同じミスを繰り返す」「物忘れが多い」という特性と、その対処法を明らかにすることができました。「できないこと」を受け入れ、ミスを減らすための工夫ができるようになったことで、就労への道が開けました。

※就職事例:『仕事が長続きしないことから判明した発達障害

擬似就労を通じて自分の得意分野に気づき、能力を活かす道を選択

大人になってから発達障害が明らかになったKさんは、就労移行支援事業所を利用して就職したものの、スキル不足から契約更新にいたらなかったそうです。2カ所目の就労移行支援事業所として「ミラトレ」への通所を開始。メンタルケア講座によって対人スキルを身につけるとともに、擬似就労を通じて得意分野を探りました。その結果、目指していたパソコン業務よりも、作業系の方が自分にあっているという認識に変わったそうです。「集中力が途切れやすい」特性と折り合いながら前向きにはたらいています。

※就職事例:『2カ所目の就労移行支援事業所への期待

就労移行支援を利用して、大人の発達障害への理解を深めよう

発達障害と折り合いをつけながらはたらくことに不安を感じる場合があるかもしれません。そのときは、専門家のサポートやアドバイスを受けられる就労移行支援制度の活用を検討してはいかがでしょうか。

就労移行支援事業所「ミラトレ」では、障害のある方が長く安心してはたらくための就職準備性を身につけられるよう、一人ひとりに配慮したトレーニングをおこなっています。職場で困りごとを感じる発達障害の方は、「なぜ自分はできないのか」ではなく「自分にできることはどのようなことか」を考えることが大切です。就労支援員とともに、障害への理解やビジネススキルの向上を図りながら、自分の能力を活かす道を探しましょう。ミラトレのサービス内容や利用方法について知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

執筆 : ミラトレノート編集部

パーソルダイバースが運営する就労移行支援事業ミラトレが運営しています。専門家の方にご協力いただきながら、就労移行支援について役立つ内容を発信しています。